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『セミ』(ショーン・タン:著、岸本佐知子:翻訳) [読書(小説・詩)]

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セミ おはなし する。
よい おはなし。かんたんな おはなし。
ニンゲンにも わかる おはなし。
トゥク トゥク トゥク!
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 ニンゲンの会社で働く一匹のセミ。差別され、仲間外れにされ、孤独に17年も働き続けたセミが迎えた定年退職の日。『アライバル』などの絵本でお馴染みのショーン・タンによる痛烈きわまりない絵本。単行本(河出書房新社)出版は2019年5月です。


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17ねんかん。しょうしん なし。
ニンゲン えらいひと 言う、セミ ニンゲンじゃない。
セミ えらい 必要ない。
トゥク トゥク トゥク!
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 くすんだ緑色のセミの顔だけがわずかな色彩という、灰色に塗りつぶされたような息苦しいオフィス風景。同僚からも上司からもいじめられ、それでも黙々と働くセミ。淡々と、むしろ冷淡に、事実だけ片言で述べては「トゥク トゥク トゥク!」と鳴くセミ。

 白人社会で働くアジア系移民が置かれている苦境を象徴しているんだろうなあ、などとセミに同情しながら(でも他人事として)読んでいると、痛烈な一撃、そしてとどめの一撃。



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