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『短歌ください 双子でも片方は泣く夜もある篇』(穂村弘) [読書(小説・詩)]

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 その年月の間に、投稿者の中から歌集を出版して、いわゆるプロの歌人への道を歩み出した人も数多く現れました。彼らの活躍のおかげもあって、さらに投稿数が増え、全体のレベルが高くなっています。でも、そのハードルを越えて、新しい才能が次々に登場しています。息を飲むような傑作に出会う喜び。短歌を全く読んだことのない人にも、本書のどの頁からでも開いて貰えれば、その魅力を実感していただけると思います。
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単行本p.250


 「ダ・ヴィンチ」誌上にて募集された、読者投稿による短歌の数々と、歌人の穂村弘さんによる選評を収録したシリーズ最新作。単行本(角川書店)出版は2019年3月です。

 連載の第91回から第120回までをまとめたものになります。作品は「転校生」「手紙」「スポーツ」といった毎回指定されるテーマに沿ったものと、自由枠とに分かれています。


 まず、別に何の不思議もないありふれた出来事の描写なのに、どこか「へんな気持ち」(NHK Eテレ0655&2355)になる作品、日常的な光景に潜む微妙な不安を感じさせるような作品が目につきます。


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「鵜が吐いた鮎を食べた」の記事にすぐいいね!をくれた初恋の人
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ゴミ箱に食パンを買うゴミ箱に食パンを入れレジまで運ぶ
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乾電池の出し入れをしてリモコンにまだ生きてると錯覚させる
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胃の内容物を全員同じにし眠気を誘う給食センター
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泣きながら埋めたクワガタだったけどもしかしてまだ死んでなかった?
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一粒の胡椒で練習し始めたサイコキネシスいま角砂糖
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さっきまで誰かの髪を撫でていた彼が鏡の彼方から来る
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彼女らは液体窒素汲みに行き四つ葉をお裾分けしてくれる
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 若者の恋愛をテーマにした作品も素敵です。


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「かわいい」と言うなら責任取ってよね新婚旅行はコンビニでいいよ
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「ジブリでどの豚が好き?」と聞いてくる紅の豚が好きな君が好き
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みなさんの初恋はどんな色ですか わたしは寒冷地迷彩です
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 しかしながら、若者にとって生活は愛よりも恋よりも「戦」に近いわけで、その戦意あふるる様が。


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「まっすぐに飛ぶよう育て」と『弓』の字を名付けた母よ飛ぶのは『矢』では?
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ご一緒にポテトはどうでしょうかよりポテト買えならMサイズ買う
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洋梨とぶどうの皮はたべますよそういう世界で生きてきたから
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壁ドンをしてくる男子を払いのけ狼を撃つために帰った
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クリスマスプレゼントには私だけ甘やかしてくれる怪人がほしい
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 年齢が高くなるにつれて、戦意というより、決死の覚悟がうたわれるようになってゆきます。


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あたしたちゴミなんですかと面接の会場ぜんぶに響き渡る声
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薄紅の光るさくらの中に立つ 避妊薬飲み忘れた朝に
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「生理中のキスは磁石の味がしませんか?」にはまだ回答がない
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今、向かうところ敵なしスーパーで万能ねぎを買ったのだから
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 なお、個人的に、クラゲと猫が登場する作品にぐっときました。


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海水が真水になってクラゲたち全員溶けてしまった未来
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さされたと嘘つきましたごめんなさいくらげのことは何も知らない
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猫カフェの店長であるその人のアイコンが犬だった衝撃
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こんなところまでついて来てくれてありがとう52階で払う猫の毛
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抱き寄せてキスした君が抱き寄せてキスした猫は股間を舐める
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タグ:穂村弘
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