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『手帳と日本人 私たちはいつから予定を管理してきたか』(舘神龍彦) [読書(教養)]

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 平成不況以降の長いデフレ期にあっても、手帳の市場規模は微増を続けてきた。ある調査によれば、現在年間1億冊もの手帳が出荷されるという。(中略)大手量販店では、通年で手帳売り場が設けられるようになったが、まさに百花繚乱というべき様相を呈している。これほど市場が成熟した国は、おそらく世界を見渡してみても日本だけだと思われる。日本はまごうことなき「手帳大国」なのである。
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新書版p.3、133


 明治の軍隊手牒、昭和の年玉手帳(企業手帳)。システム手帳、有名人手帳、スピリチュアル系の手帳まで。日本における手帳市場の変遷とその意味を探る一冊。新書版(NHK出版)出版は2018年12月、Kindle版配信は2018年12月です。


[目次]

第1章 手帳以前の時間感覚
第2章 手帳が示す行動規範
第3章 手帳にあやかる人々
第4章 手帳大国ニッポンの実像
第5章 グーグル的な時間からの自由へ


第1章 手帳以前の時間感覚
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 日本人が手帳を手にするまでには、改暦や時計の普及があり、人々がそれを受け入れる歴史があった。さらに、それをきっかけとして時間感覚を内在化した。複数のプロセスがレイヤーのように重なった結果、現在のビジネスパーソン向けの手帳は、製品として成立しているのである。
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新書版p.46


 個人が時間を管理するツールとしての手帳は、どのような背景から登場したのか。為政者による暦や時間の支配がどのように手帳と関係してきたのかを探ります。


第2章 手帳が示す行動規範
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 明治期に生まれた軍隊手牒以来、日本における手帳は発行元の存立と不可分な道具だった。年玉手帳が廃止されたことによって、仕方なく市販の手帳を買い求めた多くの人たちは、使い慣れた手帳を失っただけでなく、会社という共同体への帰属意識を薄めていった。
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新書版p.78


 明治の軍隊手牒、昭和の年玉手帳。それらは軍や企業などの組織がその構成員に帰属意識を持たせるために支給するものであった。だが、システム手帳ブーム以降、会社など共同体への帰属意識は薄れてゆくとともに、手帳が持つ可能性が大きく広がってゆく。昭和までの手帳の歴史を総括します。


第3章 手帳にあやかる人々
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 有名人手帳は、いわば、成功したビジネスパーソンの存在やそのビジネス論と、成功の理由のひとつである手帳の使い方のノウハウが、合体したものと言える。(中略)年玉手帳に記された行動規範を守っていれば安泰だった時代は終わった。しかし、有名人手帳が示す指針どおりに生活すれば、みずからの存続は変わらず保障される。そうしたファンタジーを与える機能が、平成不況まっただ中の時代に登場したこれらの有名人手帳にはあった。
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新書版p.87、90


 自己啓発系の「有名人手帳」、書き込むことで夢が実現する「神社系手帳」、アンチテーゼとしての「ほぼ日手帳」。平成に登場した様々な手帳を俯瞰し、日本社会の様相が手帳にどのように反映されていったのかを探ります。


第4章 手帳大国ニッポンの実像
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 日本における手帳の歴史を見ると、平成不況以降から自己啓発色が強くなったことが分かる。手帳の進化史には日本社会の様相が反映され、その結果として有名人手帳、神社系手帳が登場した。その隆盛を促したのは、間違いなく自己啓発書やビジネス書のブームだった。
 著者は、かねてから次のように主張している。手帳は、文具ブームと自己啓発ブームの二つの河に挟まれた肥沃な三角州である、と。
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新書版p.148


 朝活手帳、京都手帳、発酵手帳、バンギャル手帳、ホ・オポノポノ手帳、シャア専用手帳。様々な個性派手帳を眺めながら、日本における手帳市場の実像を探ります。


第5章 グーグル的な時間からの自由へ
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 一覧性や記録性の高さでは紙の手帳に一日の長があることも触れた。だが、それだけでは、これほど紙の手帳が使われ続ける理由は説明できない。とくに最近では、いったんはスマートフォンでの予定管理をしたけれども、さまざまな理由で紙の手帳に戻る人がいるとも聞く。
 著者は、人々が無意識にクラウド的な時間の不自由さを感じ取り、そこから自由でありたいという心理が生まれており、それがアナログ手帳の利用につながっているのではないかと考えている。
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新書版p.166


 PCやスマホによるスケジュール管理が普及したにも関わらず、人々が紙の手帳を使い続ける理由は何か。デジタルとアナログの時間管理を比較しながら、紙の手帳の将来について考えてゆきます。



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『ブロックチェーン 相互不信が実現する新しいセキュリティ』(岡嶋裕史) [読書(サイエンス)]

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 ブロックチェーンは、「特定の管理者がいない状況、もっと言えば参加者がすべて敵同士であるような油断のならない状況で、事前の取り決めに抵触するようなデータ処理を認めず、処理の透明性を確保し、かつデータの変更や改ざんが不可能であるようなデータ蓄積システム」だ。(中略)本来はそれだけのしくみなのだ。
 でも、純技術的なものを離れて、ブロックチェーンは「権力からの独立」や、「濡れ手に粟の一攫千金」や「ICO(新規の暗号資産発行による資金調達)」や「足のつかないマネーロンダリング」などとセットで語られてしまう。それは、わたしたちの意識にすり込まれ、長い間わたしたちを捉え続ける。
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新書版p.243


 たとえ参加者全員に悪意があったとしても、取り引きの透明性と正当性(無改ざん)を保証するデータ蓄積システム、ブロックチェーン。ビットコインなど暗号通貨を支えている「相互不信を前提としたシステム」の基本的仕組みと、それが金融のわくを越えて注目されている理由を解説した一冊。新書版(講談社)出版は2019年1月、Kindle版配信は2019年1月です。


[目次]

第1章 なぜ社会現象になったのか
第2章 特定の値を導く「ハッシュ」
第3章 さまざまな事象への「ハッシュ」の応用
第4章 不正できない構造が連鎖していくしくみ
第5章 ブロックチェーンが抱える課題と他分野への転用
終章 最初の理念が骨抜きにされると、普及が始まる


第1章 なぜ社会現象になったのか
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 イノベータやアーリーアダプタと呼ばれる人たちは、ブロックチェーンへの期待をさらに加速させ、ブロックチェーンは金融技術にとどまるものではなく、あらゆる社会システムへの応用がきくと喧伝しはじめている。新規ビジネスの企画書や、研究投資案件の公募でブロックチェーンの8文字を見ない日はない。
 これらの報道に接していると、にわかに混乱を覚える。暗号資産は安全なのか、危険なのか? 怪しい投機話なのか、未来を拓く福音なのか? 非中央集権と言われているのに、なんで責任をとって頭を下げている人がいるのか?
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新書版p.20


 ビットコインなどの暗号通貨の登場、その社会的認知の経緯、そして基盤技術であるブロックチェーンへの期待など、この技術をめぐる社会の動きをまとめます。


第2章 特定の値を導く「ハッシュ」
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 もとデータからハッシュ値を作ることができるだけで、ハッシュ値からもとデータを復元することは不可能なのである。
 もとのデータに戻せないのは、機能上重大な欠陥であるように思われるかもしれない。しかし、これが役に立つ場面はとても多い。ブロックチェーンもこの特性を最大限利用している。
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新書版p.45


 「暗号学的ハッシュ関数」とは何か。「暗号化」や「データ圧縮」とはどう違うのか。基礎知識となる「ハッシュ」の概念を丁寧に解説します。


第3章 さまざまな事象への「ハッシュ」の応用
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 いくつかの例で見てきたように、インターネットにはさまざまな攻撃手法があり、その対策としてハッシュが使われている。さまざまな脅威に対して、ハッシュで対応できることがおわかりいただけたと思う。
 そして本書の主題であるブロックチェーンもまた、そうした技術の一つなのである。
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新書版p.108


 データ改ざん、作成元偽装、事後否認。ハッシュにより可能となる不正検知(正当性保証)の仕組み、さらにそれを応用した共通鍵暗号方式について解説します。


第4章 不正できない構造が連鎖していくしくみ
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 なぜ使いはじめた最初のデータから今に至るまでのデータをすべて数珠つなぎ(チェーン)にして、流通させ続けなければならないのだろう。どこか適切な場所でブロックを分離すれば、ネットワークにかかる負荷も、コンピュータにかかる負荷も抑制することができるのに。
 実は、ここにブロックチェーンの第二の特徴である、非中央集権型である点がかかわってくる。非中央集権型、すなわち誰も偉い人がいないシステムを実現するために、長い長いブロックの連鎖が必要なのだ。
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新書版p.121


 非中央集権型、書き込み専用、改ざん困難。これらの特性を持った分散型データベースシステムであるブロックチェーン。その基本的な仕組みを解説します。


第5章 ブロックチェーンが抱える課題と他分野への転用
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 国家権力は信用ならないし、銀行も「不当に高い手数料を取っているのでは?」「悪意はなくても低廉にする努力を怠っているのでは?」という意味で信用ならない。こういう分野でパブリックチェーンを使うことには意味があるし、今までは不可能と考えられていたサービスを作っていくことも可能だろう。
 しかし、そのネットワークの中に、たとえ利便性のためとはいえ、管理者を置いてしまうのであれば、このブロックチェーン最大の特徴が失われてしまう。
「その管理者は信用できるのか?」という問題が、再び立ち現れてしまうのだ。
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新書版p.212


 膨大な電力浪費、システム停止変更の困難さ、「フォーク」対応、取り引き承認の遅さ、51パーセント攻撃、インセンティブ設計の困難さ、取引所介在により生ずるセキュリティホール、そして違法行為への活用。ブロックチェーンおよび暗号通貨が抱えている社会的な課題について詳しく解説します。


終章 最初の理念が骨抜きにされると、普及が始まる
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 インターネットがそうであったように、ブロックチェーンも一つのインフラとして育っていくだろう。しかし、そのプロセスにはまだ何回かの失望が予測され、また広がる範囲も限定的なものになるかもしれない。そして、ここが最重要だが、非中央集権の旗印であったはずの技術が、その発展の中でむしろ既存の権力者を強化する方向に働く可能性すらあるのだ。
 我々は、インターネットで一度それを目にしたばかりである。
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新書版p.240


 インターネット普及の歴史と比較しつつ、ブロックチェーンの将来性について考えてゆきます。



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