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『光と私語』(吉田恭大) [読書(小説・詩)]

 おしゃれな体裁、おしゃれでない青春。待望のいぬのせなか座叢書第三弾。単行本(いぬのせなか座)出版は2019年3月です。


 背表紙がなく、透明カバーを外すと表題も著者名も消えてしまう書物。あちこちに配置された現代美術っぽい灰色長方形。余白を存分にとったというかむしろ余白こそが主役ではないかと思わせる文字配置。おしゃれな平面から見えてくるのは地味な青春。うわさすがのいぬのせなか座叢書第三弾。ちみなに既刊の紹介はこちら。


2017年07月19日の日記
『地上で起きた出来事はぜんぶここからみている』(河野聡子)
https://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-07-19


2017年09月21日の日記
『灰と家』(鈴木一平)
https://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-09-21


 短文配置構造、クールな現代詩。そして第三弾は、地味な青春短詩です。


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泥のごと眠ればやがて干からびた泥の崩れるごとく目覚める
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日が変わるたびに地上に生まれ来るTUTAYAの延滞料の総和よ
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燃えるのは火曜と木曜と土曜。火曜に捨てる土曜の残り
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カキフライかがやく方を持ち上げて始発、東西線に投げ込む
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カロリーをジュールに変えてゆく日々の暮らしが骨と骨の隙間に
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ここはきっと世紀末でもあいている牛丼屋 夜、度々通う
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コンビニを並べていけばそれぞれにあかるい歌が聞こえる町だ
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ドアに鍵、ドアにドアノブ、ドアノブに指紋、指紋、指紋、笑えよ
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ぞうがめの甲羅を磨く職人の家系に生まれなかった暮らし
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 性的なことも書かれるのですが、相聞歌にはほど遠く、即物的というか虚しいというか、そもそも相手の存在が見えない。


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のぞみなら品川名古屋間ほどの時間をかけて子孫をつくる
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最中には右脳の側で市が立ち左脳から沢山人が来る
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PCの画面あかるい外側でわたしたちの正常位の終わり
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運転手も車掌も僕だ 乗客はないから君の布団でねむる
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 動物が話題になるときでも、どこか殺伐とした印象が残ります。


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ジョージは死して甲羅を残し、国中の鬼祭を網羅するウィキペディア
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白亜紀を生き残らない生き物が教育テレビの向こうで暮らす
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犬猫は架空のことを話さない。それを踏まえて灯るコンビニ
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トラのいる檻でボタンを押して鳴るさびしい時のトラの鳴き声
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脚の長い鳥はだいたい鷺だから、これからもそうして暮らすから
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 誰もが聞いたことのあるフレーズを巧みに流用した作品も心に残ります。


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「西。東日本各地に未明から断続的に非常に強い」
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明日の各地のわたくしたちの/断続的に非常に強い
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九月尽 ここがウィネトカなら君は帰っていいよ好きなところへ
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