『『サトコとナダ』から考えるイスラム入門 ムスリムの生活・文化・歴史』(椿原敦子、黒田賢治) [読書(教養)]
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世界にはいろんなムスリムがいて、イスラムについてのいろんな考え方があるという話は、読めば読むほど「わかった」感覚から遠ざかるような、心細い気持ちになるかもしれません。でも、それでいいのです。
難解に感じることはきちんと理解している証拠です。分かったつもりになって疑問を抱かないことが最も危ないのです。それが知らない相手と一緒にうまく暮らす上でまずは覚えておくことでしょうか。
(中略)
近年、多文化共生がますます盛んに言われるようになりましたが、共生は相手の気持ちや考えに共感することとは違います。そんなに頑張って相手のことを理解しよう、仲良くしようと努めなくても、言葉のかけ方やちょっとした行いで、お互いが気持ちよく過ごす方法が現実的な意味での共生のやり方でしょう。
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新書版p.202、205
イスラム教とはどんな宗教なのか。ムスリムと呼ばれる人々はどのように考えて暮らしているのか。隣人として付き合うために、一歩踏み出すためのイスラム入門。新書版(星海社)出版は2018年12月です。
『となりのイスラム』(内藤正典)と並んで、イスラムと付き合ってゆくための基礎知識をやさしく教えてくれる本です。ちなみに『となりのイスラム』の紹介はこちら。
2017年02月09日の日記
『となりのイスラム 世界の3人に1人がイスラム教徒になる時代』
https://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-02-09
個人的に『サトコとナダ』が好きなので、その解説本かと思って読んだのですが、そうではありませんでした。引用(漫画)があちこちに散りばめられていますが、本文中には一切『サトコとナダ』への言及はありません。先に本文が完成して、後から『サトコとナダ』の断片をイラストとして混ぜ、タイトルにも追加したのではないか、という気もします。
[目次]
第1章 暮らしのなかのイスラム1日、1年、そして一生
第2章 おさえておきたいイスラムの成り立ち
第3章 世界に17.3億人! 世界にひろがるイスラム
第4章 現代世界のイスラム
第5章 ムスリムさんのおもてなしーー共存から共生へ
第1章 暮らしのなかのイスラム1日、1年、そして一生
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本章を読んでみるまで「豚肉は食べない」、「女性は全身を隠す服を着ている」という姿こそがムスリムだと思っていなかったでしょうか。あるいは「1日に何度もお祈りをして大変」、「女性は男性の意見に従わなければいけない」などと窮屈な暮らしをしているイメージをもっていなかったでしょうか。その姿やイメージも間違いではありません。しかし、ムスリムにもいろんな人がいるという、当たり前のことに気づいてもらえればと思います。
日本も韓国も中国もアジア人だし全員いっしょだよね、と言われたらちょっと待て結構違うよ!と突っ込みたくなりますよね。それと同じことです。世界中にいるムスリムが同じ見た目や生活をしているわけではありません。
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新書版p.75
ヒジュラ暦ってなに? 礼拝はどんな具合にやるの? ラマダーンには絶食するの? ハラルフードしか食べないの? お酒は厳禁? どうしてヒジャブをかぶるの? 恋愛や結婚はどんな風なの? 基本となる知識から、ひとくちにムスリムといっても実に様々な生き方や考え方があることを教えてくれます。
第2章 おさえておきたいイスラムの成り立ち
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ハディース学の発展により、ムハンマドが何を伝え、行い、黙認したのかが明らかになると、ムスリムとしての振る舞いや信条についても吟味されることになります。こうしてイスラムに関する学問は、更に系統立てて体系化されていきました。
単純化していえば、外面の行為に関しては法学が、内面の行為に関しては神学が規定しています。これらの規定に加え、神の存在を体験する実践的な学問として、スーフィズムが現れました。
これら三つの学問は、中東から南アジア、東南アジア、アフリカに広がった歴史的なイスラム社会の知識人のあいだで共有された知識でした。
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新書版p.106
ムハンマド、コーラン、様々なイスラム分派、ハディース。イスラム教の起源から現代までの歴史を概説します。
第3章 世界に17.3億人! 世界にひろがるイスラム
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ジハードを、なぜあるムスリムは「聖戦」の意味として正当化し、別のムスリムは内面の自己研鑽として正当化するのかという問題に明確な答えはありません。結局はその人次第としか答えられません。
どう思うかは思想・信条の自由ですので、私たちとは相いれない過激な思想というだけでは否定も処罰もできません。
過激派の問題を考えるときに忘れてはならないのは、イスラムに目覚めたムスリムが全員、同じ方向に進んでいくわけではないということです。また聖典に則った「正しい」イスラムを目指すといっても、それは一つとは限りません。
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新書版p.146
世界中で暮らしているムスリムの地域ごとの事情をざっと見てゆき、中東問題から過激派テロまで、現代世界におけるイスラム問題を解説します。
第4章 現代世界のイスラム
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近年ヨーロッパは国内のムスリム住人に目を向けることで不安に駆られ、アメリカは他国のムスリムの存在に目を向けることで不安に駆られています。
ムスリムが身近な存在であるはずのヨーロッパでは、何が問題とされることでイスラム恐怖症が復活し、ムスリムへの排斥が強まってきたのでしょうか? 反対にアメリカでは何が見落とされることで、イラスム恐怖症が生まれてきたのでしょうか。
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新書版p.159
難民問題からイスラム排斥まで、イスラモフォビア(イスラム嫌悪、イスラム恐怖)の背後にある事情を解説します。
第5章 ムスリムさんのおもてなしーー共存から共生へ
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イスラムやムスリムの生活や文化、歴史について学んだことで、さまざまな驚きや戸惑いの気持ちも浮かんできたのではないでしょうか。ムスリムとのお付き合いのために本書を手に取った方ならなおさらのことと思います。
知っていても、受け入れられないかもしれない。
でも、全てを受け入れられなくても、お付き合いはできる、と著者たちは考えます。
それは、どんな気持ちで接するかという心の問題ではなくて、どう接するかという行動の問題だからです。
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新書版p.188
日本に定住しているムスリムをめぐる事情を解説し、精神論ではなく現実的に共生してゆくためにどうすればいいのかを考えてゆきます。
世界にはいろんなムスリムがいて、イスラムについてのいろんな考え方があるという話は、読めば読むほど「わかった」感覚から遠ざかるような、心細い気持ちになるかもしれません。でも、それでいいのです。
難解に感じることはきちんと理解している証拠です。分かったつもりになって疑問を抱かないことが最も危ないのです。それが知らない相手と一緒にうまく暮らす上でまずは覚えておくことでしょうか。
(中略)
近年、多文化共生がますます盛んに言われるようになりましたが、共生は相手の気持ちや考えに共感することとは違います。そんなに頑張って相手のことを理解しよう、仲良くしようと努めなくても、言葉のかけ方やちょっとした行いで、お互いが気持ちよく過ごす方法が現実的な意味での共生のやり方でしょう。
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新書版p.202、205
イスラム教とはどんな宗教なのか。ムスリムと呼ばれる人々はどのように考えて暮らしているのか。隣人として付き合うために、一歩踏み出すためのイスラム入門。新書版(星海社)出版は2018年12月です。
『となりのイスラム』(内藤正典)と並んで、イスラムと付き合ってゆくための基礎知識をやさしく教えてくれる本です。ちなみに『となりのイスラム』の紹介はこちら。
2017年02月09日の日記
『となりのイスラム 世界の3人に1人がイスラム教徒になる時代』
https://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-02-09
個人的に『サトコとナダ』が好きなので、その解説本かと思って読んだのですが、そうではありませんでした。引用(漫画)があちこちに散りばめられていますが、本文中には一切『サトコとナダ』への言及はありません。先に本文が完成して、後から『サトコとナダ』の断片をイラストとして混ぜ、タイトルにも追加したのではないか、という気もします。
[目次]
第1章 暮らしのなかのイスラム1日、1年、そして一生
第2章 おさえておきたいイスラムの成り立ち
第3章 世界に17.3億人! 世界にひろがるイスラム
第4章 現代世界のイスラム
第5章 ムスリムさんのおもてなしーー共存から共生へ
第1章 暮らしのなかのイスラム1日、1年、そして一生
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本章を読んでみるまで「豚肉は食べない」、「女性は全身を隠す服を着ている」という姿こそがムスリムだと思っていなかったでしょうか。あるいは「1日に何度もお祈りをして大変」、「女性は男性の意見に従わなければいけない」などと窮屈な暮らしをしているイメージをもっていなかったでしょうか。その姿やイメージも間違いではありません。しかし、ムスリムにもいろんな人がいるという、当たり前のことに気づいてもらえればと思います。
日本も韓国も中国もアジア人だし全員いっしょだよね、と言われたらちょっと待て結構違うよ!と突っ込みたくなりますよね。それと同じことです。世界中にいるムスリムが同じ見た目や生活をしているわけではありません。
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新書版p.75
ヒジュラ暦ってなに? 礼拝はどんな具合にやるの? ラマダーンには絶食するの? ハラルフードしか食べないの? お酒は厳禁? どうしてヒジャブをかぶるの? 恋愛や結婚はどんな風なの? 基本となる知識から、ひとくちにムスリムといっても実に様々な生き方や考え方があることを教えてくれます。
第2章 おさえておきたいイスラムの成り立ち
――――
ハディース学の発展により、ムハンマドが何を伝え、行い、黙認したのかが明らかになると、ムスリムとしての振る舞いや信条についても吟味されることになります。こうしてイスラムに関する学問は、更に系統立てて体系化されていきました。
単純化していえば、外面の行為に関しては法学が、内面の行為に関しては神学が規定しています。これらの規定に加え、神の存在を体験する実践的な学問として、スーフィズムが現れました。
これら三つの学問は、中東から南アジア、東南アジア、アフリカに広がった歴史的なイスラム社会の知識人のあいだで共有された知識でした。
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新書版p.106
ムハンマド、コーラン、様々なイスラム分派、ハディース。イスラム教の起源から現代までの歴史を概説します。
第3章 世界に17.3億人! 世界にひろがるイスラム
――――
ジハードを、なぜあるムスリムは「聖戦」の意味として正当化し、別のムスリムは内面の自己研鑽として正当化するのかという問題に明確な答えはありません。結局はその人次第としか答えられません。
どう思うかは思想・信条の自由ですので、私たちとは相いれない過激な思想というだけでは否定も処罰もできません。
過激派の問題を考えるときに忘れてはならないのは、イスラムに目覚めたムスリムが全員、同じ方向に進んでいくわけではないということです。また聖典に則った「正しい」イスラムを目指すといっても、それは一つとは限りません。
――――
新書版p.146
世界中で暮らしているムスリムの地域ごとの事情をざっと見てゆき、中東問題から過激派テロまで、現代世界におけるイスラム問題を解説します。
第4章 現代世界のイスラム
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近年ヨーロッパは国内のムスリム住人に目を向けることで不安に駆られ、アメリカは他国のムスリムの存在に目を向けることで不安に駆られています。
ムスリムが身近な存在であるはずのヨーロッパでは、何が問題とされることでイスラム恐怖症が復活し、ムスリムへの排斥が強まってきたのでしょうか? 反対にアメリカでは何が見落とされることで、イラスム恐怖症が生まれてきたのでしょうか。
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新書版p.159
難民問題からイスラム排斥まで、イスラモフォビア(イスラム嫌悪、イスラム恐怖)の背後にある事情を解説します。
第5章 ムスリムさんのおもてなしーー共存から共生へ
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イスラムやムスリムの生活や文化、歴史について学んだことで、さまざまな驚きや戸惑いの気持ちも浮かんできたのではないでしょうか。ムスリムとのお付き合いのために本書を手に取った方ならなおさらのことと思います。
知っていても、受け入れられないかもしれない。
でも、全てを受け入れられなくても、お付き合いはできる、と著者たちは考えます。
それは、どんな気持ちで接するかという心の問題ではなくて、どう接するかという行動の問題だからです。
――――
新書版p.188
日本に定住しているムスリムをめぐる事情を解説し、精神論ではなく現実的に共生してゆくためにどうすればいいのかを考えてゆきます。
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