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『斜面』(小野寺修二) [ダンス]

 2018年6月10日は夫婦で東京芸術劇場シアターウエストに行って、小野寺修二さんの新作を鑑賞しました。小野寺さんを含む5名が踊る80分の公演です。


[キャスト他]

振付・演出: 小野寺修二
出演: 首藤康之、王下貴司、雫境、藤田桃子、小野寺修二


 ダンサーの首藤康之さんが主演するセリフなしの心理サスペンス。どうしても『空白に落ちた男』を思い出します。ただし登場人物と出演者との対応関係はそれなりに安定しており、場面のつながりから一貫したストーリーの存在が感じられます。

 舞台上には、向かって右側に急斜面、左側にゆるやかな斜面が配置されています。転落、陥穽、といった連想が働き、これが舞台を支配しているという印象。

 首藤康之さんのダンスは抑制が利いていて、両手を交差させつつ上昇させるといった動きだけで心理表現してのけます。そもそも立っている姿がかっこいい。手に持った懐中時計(だとばかり思っていたら実は強力ライト)の光を浴びながら暗がりのなかで踊るシーンは、忘れがたいほどの強烈な印象を残します。

 王下貴司さんがキレのいいダンスを踊り、後のシーンで首藤康之さんが真似して踊るという演出はすごかった。小野寺修二さんは緊張を緩和するユーモラスなシーン(急斜面に椅子を固定してそこに座ろうとして努力するが転落しまくる、など)で活躍してくれました。

 セリフも状況説明も明確なプロットもない80分を緊張感を途切らせることなく観せる小野寺修二さんの演出力はすごい。



タグ:小野寺修二
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『ムーンライトプール』(lal banshees、横山彰乃) [ダンス]

 2018年6月9日は夫婦でシアタートラムに行って横山彰乃さん率いるlal bansheesの新作公演を鑑賞しました。メンバー7名が踊る70分の舞台です。


[キャスト他]

振付・演出: 横山彰乃
出演: asamicro、北川結(モモンガ・コンプレックス)、後藤ゆう、菅彩夏、菅原理子、仁科幸、 横山彰乃


 今年は東京ELECTROCK STAIRSの公演予定が入っておらず、それぞれのメンバーが個別に活動するとのこと。まずは先々週の高橋萌登さんのソロ公演、続いて先週は横山彰乃さんのカンパニー"lal banshees"の公演、と立て続けに公開されました。ちなみに高橋萌登さんのソロ公演の紹介はこちら。


  2018年06月04日の日記
  『未来永劫彼方より』
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2018-06-04


 小柄な高橋萌登さんに対して、横山彰乃さんは大柄で手足が長く、外へ外へと大きく広がってゆくような力強いダンスを踊ってくれます。今回、手の指を動かす振付が多く、手足だけでなく指も長く、見栄えがすることに気づきました。

 半透明の幕で手前と奥に区切られた舞台、手前の舞台を取り囲むように並べられた21個の照明。そこで7名が踊ります。服装は割とばらばらですが、白い靴と赤い靴下が共通。全体的には弔いの白い衣装、という印象が残ります。

 照明効果により演出される夜あるいは夕暮れ時の雰囲気が見事で、どこか悲しみや切なさを感じさせる作品です。懐中電灯を首からかけて動いたり、音を立てて胡瓜を噛んだり、小道具の使い方も感心させられました。横山彰乃さんが床に配置された照明を「飛び石」として舞台の端から端まで渡ってゆくシーンは、子ども時代の寂しさを思い出して胸にじんとくるものが。

 3名が勢いよく踊っている間に残り4名(しばしば1名が舞台裏に)が座って地味な動きをしている、というシーンが多かったような気がします。スポットライトがあたったエリアの周囲を、まるで「たき火の周りで盆踊り」という感じで全員が踊りながら周回してゆくという印象的な振付には、横山彰乃さんのこだわりがあるのかも知れません。

 lal bansheesとしての公演を観るのは初めてだったのでずか、とにかく実力のあるメンバーがそろっていて、いくつか用意されたソロシーンも見応えがありました。みんな踊れる踊れる。

 先入観かも知れませんが、師匠KENTARO!!の演出を着実に受け継いで自分のものにしているなあ、という気がします。ソロで自分を表現する高橋萌登さん、カンパニーを育てる横山彰乃さん。東京ELECTROCK STAIRSから立て続けにすごい逸材を輩出してのけたKENTARO!!はやっぱり凄い。



タグ:横山彰乃
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『無限』(イアン・スチュアート、川辺治之:翻訳) [読書(サイエンス)]

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 私は,数学が無限についてのどんなパズルも説明しているという印象を植えつけたくはない.数学者でさえ,無限についてのどんなパズルも説明されたと主張することはない.とくに公理的集合論には,未解決問題がまだ山ほどある.しかし,数学者は,私たちがこれらの問題を理解できるように論理的枠組みを作り上げ,そのうちの多くに答え,そして,様々な無限の具体例を区別する.この枠組みは新しい劇的な発見につながり,数学をより豊かにし,そして,新たな応用に結びつける.
 ようこそ,奇妙だが美しい無限の世界へ.
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単行本p.151


 それは数学になくてはならない概念。しかし、ちょっとでも取り扱いを間違えると大量のパラドックスを生み出す危険な存在。「無限」をめぐる様々な数学トピックを一般向けに紹介してくれるサイエンス本。単行本(岩波書店)出版は2018年5月です。


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 非常に大きな概念について非常に短い紹介を書くというのは逆説的に見えるかもしれないが,無限は逆説的なのである.また,無限はきわめて役に立つので,無限なくしては数学者や数学の利用者は途方に暮れるだろう.しかしながら,十分注意して扱わなければ,無限は物騒でもある.哲学者や神学者は,重点を置くところは違うものの同じ二律背反に直面してきた.無限を目の前で爆発させずに扱う方法を学ぶのに2000年以上もかかったし,それでもなお,問題を引き起こすことがある.
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「はじめに」より


 数学における小ネタの数々を面白く紹介する手際で知られる著者が、様々な分野に現れる「無限」について紹介してくれる一冊です。ちなみに旧作の紹介はこちら。


  2010年09月09日の日記
  『数学の魔法の宝箱』
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2010-09-09

  2010年06月09日の日記
  『数学の秘密の本棚』
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2010-06-09


 全体は7つの章から構成されています。


「1. パズル,証明,パラドックス」
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 時刻0に,電灯のスイッチを切る.その2分の1秒後に,電灯のスイッチを入れる.その4分の1秒後に,電灯のスイッチを切る.その8分の1秒後に,電灯のスイッチを入れる.その16分の1秒後に,電灯のスイッチを切る,というようにどこまでも続ける.それぞれのスイッチを入り切りする間隔は,その直前の間隔の半分である.それでは,1秒後には,電灯は点いているだろうか,それとも消えているだろうか.
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単行本p.3

 「無限+1=無限」という正しい数式の両辺から無限を引くと「1=0」が証明される?
 無限を無造作に扱うことから生ずる様々な問題やパラドックスを紹介します。


「2. 無限との遭遇」
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 無限は,けっして高度な数学における一種の難解な発明ではない.無限には,小学校のかなり早い段階で遭遇する.(中略)小数について教わるとき,無限は極めて重要なやり方で頭をもたげ,それまでに習った分数の概念と結びつくのである.
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単行本p.15

 小学校で習う算数の段階においても、無限は重要な問題となる。循環小数や無理数のなかに潜んでいる無限について解説します。


「3. 無限の歴史観」
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 切断は有理数の集合の対であり,それらは無限集合である.そのような集合に対して足し算や掛け算を行うとき,概念上は無限の対象を扱うことになる.今日の数学者はこのような考え方に慣れているし,その哲学的な意味合いに惑わされることはない.哲学者は,概して,これを気にかけて,そのほとんどがこれに反論する.その論争は,両陣営が興味を失うことで,いつかは終わる.
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単行本p.29

 「アキレスと亀」などゼノンのパラドックスから始まり、哲学や神学における無限の概念が歴史的にどのように議論されてきたかを紹介します。


「4. 表裏一体の無限」
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 努力すれば,この言語,そして,論理的にうまく組み合わさって全体として筋の通った解析学を習得することができるだろう.何世代もの学生がこれになじむ過程を経験することで,無限小による過去の忌わしい日々は数学の記憶から徐々に姿を消した.
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単行本p.72

 無限に小さいものを無限に足す、無限に小さい値を無限に小さい値で割る。極限が特定の値に収束するとは、厳密には何を意味しているのだろうか。微積分の発見と解析学への展開について解説します。


「5. 幾何学的な無限」
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 この論証のどこかが分かりにくく不可解だったとしても,心配はしなくてよい.私は,ただ,読者に,同じような混迷に取り組まなければならなかった数学者の身になってもらおうとしているだけである.
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単行本p.90

 ユークリッド幾何学においては、あらゆる二本の直線は一点で交わる、ただし平行線は例外とする。しかし、なぜ例外が必要なのか。平行線は無限遠点で交わる、と定義すればいいのではないか。無限の長さや無限の広さを幾何学はどのように扱うのかを解説します。


「6. 物理的な無限」
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 実際の無限,それも概念的なものではなく物理的な無限が,許容されているだけでなく,起こりうる真実として存在するような物理学の領域が一つある.それは,宇宙論である.
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単行本p.103

 光学における無限、古典物理における無限、そして近代宇宙論における無限。物理学者たちが無限量をどのように扱ってきたのかを解説します。


「7. 無限を数える」
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 カントルは,論理的かつ厳密に,数の領域の中においてでさえ,無限にはいくつかの大きさがあるということを立証した.具体的には,すべての実数の個数の無限は,自然数の個数の無限よりも大きいというのだ.(中略)自然数は可算無限であるが,実数は非可算無限なのである.
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単行本p.117

 無限の性質に関するカントルの重要な発見はどのようにして立証されたのか。無限をプロセスではなく演算対象として扱えるようにしたカントルの業績について解説します。



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『UFOと短歌』(超常同人誌「UFO手帖2.0」掲載作品)を公開 [その他]

 馬場秀和アーカイブに、超常同人誌「UFO手帖2.0」(2017年11月刊行)に掲載された『UFOと短歌』(加筆修正あり)を追加しました。

『UFOと短歌』
http://www.aa.cyberhome.ne.jp/~babahide/bbarchive/UFOandTanka.html


 なお、「UFO手帖2.0」の紹介はこちら。

  2017年11月15日の日記
  『UFO手帖2.0』(Spファイル友の会)
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-11-15



タグ:同人誌
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『18TICKET』(構成・振付:近藤良平、コンドルズ) [ダンス]

 2018年6月3日は、夫婦で彩の国さいたま芸術劇場に行って、近藤良平率いる大人気ダンスカンパニー「コンドルズ」の新作公演を鑑賞しました。毎年、この時期になるとさいたま芸術劇場にやってくる恒例の「地域の皆様にも初夏の風物詩として親しまれている」(劇場関係者談)コンドルズさいたま公演、その第12回です。今回は上演時間110分とやや長め。

 たくさんの矢印、というか山道などに立てられている方向指示板が並んだ舞台上で、矢印が示す方向に旅と青春が暴走する公演です。ちなみに矢印ギャグというのか、大きな矢印を持ったメンバー数名が舞台上(ときには観客席)を歩きまわり、特定の人物に注目を集めたり、存在しないものの動きを可視化したり、まあ色々と笑わせてきます。

 時事ネタを含む多数の、ときに神がかったギャグの数々にはどうしたって爆笑してしまいますが、人形劇もコントもさらに磨きがかかっていて素晴らしい。もちろん若手も古参もがんがん踊ってくれます。

 さいたま公演では、大ホールの広さと奥行きを活かした演出が毎回話題になるのですが、今回も群舞のラストにしびれるような舞台転換が用意されており、そこから近藤良平さんのソロダンスへと移行する演出がすごい。もはや古典芸能の風格すら感じられます。



タグ:近藤良平
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