『無限』(イアン・スチュアート、川辺治之:翻訳) [読書(サイエンス)]
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私は,数学が無限についてのどんなパズルも説明しているという印象を植えつけたくはない.数学者でさえ,無限についてのどんなパズルも説明されたと主張することはない.とくに公理的集合論には,未解決問題がまだ山ほどある.しかし,数学者は,私たちがこれらの問題を理解できるように論理的枠組みを作り上げ,そのうちの多くに答え,そして,様々な無限の具体例を区別する.この枠組みは新しい劇的な発見につながり,数学をより豊かにし,そして,新たな応用に結びつける.
ようこそ,奇妙だが美しい無限の世界へ.
――――
単行本p.151
それは数学になくてはならない概念。しかし、ちょっとでも取り扱いを間違えると大量のパラドックスを生み出す危険な存在。「無限」をめぐる様々な数学トピックを一般向けに紹介してくれるサイエンス本。単行本(岩波書店)出版は2018年5月です。
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非常に大きな概念について非常に短い紹介を書くというのは逆説的に見えるかもしれないが,無限は逆説的なのである.また,無限はきわめて役に立つので,無限なくしては数学者や数学の利用者は途方に暮れるだろう.しかしながら,十分注意して扱わなければ,無限は物騒でもある.哲学者や神学者は,重点を置くところは違うものの同じ二律背反に直面してきた.無限を目の前で爆発させずに扱う方法を学ぶのに2000年以上もかかったし,それでもなお,問題を引き起こすことがある.
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「はじめに」より
数学における小ネタの数々を面白く紹介する手際で知られる著者が、様々な分野に現れる「無限」について紹介してくれる一冊です。ちなみに旧作の紹介はこちら。
2010年09月09日の日記
『数学の魔法の宝箱』
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2010-09-09
2010年06月09日の日記
『数学の秘密の本棚』
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2010-06-09
全体は7つの章から構成されています。
「1. パズル,証明,パラドックス」
――――
時刻0に,電灯のスイッチを切る.その2分の1秒後に,電灯のスイッチを入れる.その4分の1秒後に,電灯のスイッチを切る.その8分の1秒後に,電灯のスイッチを入れる.その16分の1秒後に,電灯のスイッチを切る,というようにどこまでも続ける.それぞれのスイッチを入り切りする間隔は,その直前の間隔の半分である.それでは,1秒後には,電灯は点いているだろうか,それとも消えているだろうか.
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単行本p.3
「無限+1=無限」という正しい数式の両辺から無限を引くと「1=0」が証明される?
無限を無造作に扱うことから生ずる様々な問題やパラドックスを紹介します。
「2. 無限との遭遇」
――――
無限は,けっして高度な数学における一種の難解な発明ではない.無限には,小学校のかなり早い段階で遭遇する.(中略)小数について教わるとき,無限は極めて重要なやり方で頭をもたげ,それまでに習った分数の概念と結びつくのである.
――――
単行本p.15
小学校で習う算数の段階においても、無限は重要な問題となる。循環小数や無理数のなかに潜んでいる無限について解説します。
「3. 無限の歴史観」
――――
切断は有理数の集合の対であり,それらは無限集合である.そのような集合に対して足し算や掛け算を行うとき,概念上は無限の対象を扱うことになる.今日の数学者はこのような考え方に慣れているし,その哲学的な意味合いに惑わされることはない.哲学者は,概して,これを気にかけて,そのほとんどがこれに反論する.その論争は,両陣営が興味を失うことで,いつかは終わる.
――――
単行本p.29
「アキレスと亀」などゼノンのパラドックスから始まり、哲学や神学における無限の概念が歴史的にどのように議論されてきたかを紹介します。
「4. 表裏一体の無限」
――――
努力すれば,この言語,そして,論理的にうまく組み合わさって全体として筋の通った解析学を習得することができるだろう.何世代もの学生がこれになじむ過程を経験することで,無限小による過去の忌わしい日々は数学の記憶から徐々に姿を消した.
――――
単行本p.72
無限に小さいものを無限に足す、無限に小さい値を無限に小さい値で割る。極限が特定の値に収束するとは、厳密には何を意味しているのだろうか。微積分の発見と解析学への展開について解説します。
「5. 幾何学的な無限」
――――
この論証のどこかが分かりにくく不可解だったとしても,心配はしなくてよい.私は,ただ,読者に,同じような混迷に取り組まなければならなかった数学者の身になってもらおうとしているだけである.
――――
単行本p.90
ユークリッド幾何学においては、あらゆる二本の直線は一点で交わる、ただし平行線は例外とする。しかし、なぜ例外が必要なのか。平行線は無限遠点で交わる、と定義すればいいのではないか。無限の長さや無限の広さを幾何学はどのように扱うのかを解説します。
「6. 物理的な無限」
――――
実際の無限,それも概念的なものではなく物理的な無限が,許容されているだけでなく,起こりうる真実として存在するような物理学の領域が一つある.それは,宇宙論である.
――――
単行本p.103
光学における無限、古典物理における無限、そして近代宇宙論における無限。物理学者たちが無限量をどのように扱ってきたのかを解説します。
「7. 無限を数える」
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カントルは,論理的かつ厳密に,数の領域の中においてでさえ,無限にはいくつかの大きさがあるということを立証した.具体的には,すべての実数の個数の無限は,自然数の個数の無限よりも大きいというのだ.(中略)自然数は可算無限であるが,実数は非可算無限なのである.
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単行本p.117
無限の性質に関するカントルの重要な発見はどのようにして立証されたのか。無限をプロセスではなく演算対象として扱えるようにしたカントルの業績について解説します。
私は,数学が無限についてのどんなパズルも説明しているという印象を植えつけたくはない.数学者でさえ,無限についてのどんなパズルも説明されたと主張することはない.とくに公理的集合論には,未解決問題がまだ山ほどある.しかし,数学者は,私たちがこれらの問題を理解できるように論理的枠組みを作り上げ,そのうちの多くに答え,そして,様々な無限の具体例を区別する.この枠組みは新しい劇的な発見につながり,数学をより豊かにし,そして,新たな応用に結びつける.
ようこそ,奇妙だが美しい無限の世界へ.
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単行本p.151
それは数学になくてはならない概念。しかし、ちょっとでも取り扱いを間違えると大量のパラドックスを生み出す危険な存在。「無限」をめぐる様々な数学トピックを一般向けに紹介してくれるサイエンス本。単行本(岩波書店)出版は2018年5月です。
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非常に大きな概念について非常に短い紹介を書くというのは逆説的に見えるかもしれないが,無限は逆説的なのである.また,無限はきわめて役に立つので,無限なくしては数学者や数学の利用者は途方に暮れるだろう.しかしながら,十分注意して扱わなければ,無限は物騒でもある.哲学者や神学者は,重点を置くところは違うものの同じ二律背反に直面してきた.無限を目の前で爆発させずに扱う方法を学ぶのに2000年以上もかかったし,それでもなお,問題を引き起こすことがある.
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「はじめに」より
数学における小ネタの数々を面白く紹介する手際で知られる著者が、様々な分野に現れる「無限」について紹介してくれる一冊です。ちなみに旧作の紹介はこちら。
2010年09月09日の日記
『数学の魔法の宝箱』
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2010-09-09
2010年06月09日の日記
『数学の秘密の本棚』
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2010-06-09
全体は7つの章から構成されています。
「1. パズル,証明,パラドックス」
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時刻0に,電灯のスイッチを切る.その2分の1秒後に,電灯のスイッチを入れる.その4分の1秒後に,電灯のスイッチを切る.その8分の1秒後に,電灯のスイッチを入れる.その16分の1秒後に,電灯のスイッチを切る,というようにどこまでも続ける.それぞれのスイッチを入り切りする間隔は,その直前の間隔の半分である.それでは,1秒後には,電灯は点いているだろうか,それとも消えているだろうか.
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単行本p.3
「無限+1=無限」という正しい数式の両辺から無限を引くと「1=0」が証明される?
無限を無造作に扱うことから生ずる様々な問題やパラドックスを紹介します。
「2. 無限との遭遇」
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無限は,けっして高度な数学における一種の難解な発明ではない.無限には,小学校のかなり早い段階で遭遇する.(中略)小数について教わるとき,無限は極めて重要なやり方で頭をもたげ,それまでに習った分数の概念と結びつくのである.
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単行本p.15
小学校で習う算数の段階においても、無限は重要な問題となる。循環小数や無理数のなかに潜んでいる無限について解説します。
「3. 無限の歴史観」
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切断は有理数の集合の対であり,それらは無限集合である.そのような集合に対して足し算や掛け算を行うとき,概念上は無限の対象を扱うことになる.今日の数学者はこのような考え方に慣れているし,その哲学的な意味合いに惑わされることはない.哲学者は,概して,これを気にかけて,そのほとんどがこれに反論する.その論争は,両陣営が興味を失うことで,いつかは終わる.
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単行本p.29
「アキレスと亀」などゼノンのパラドックスから始まり、哲学や神学における無限の概念が歴史的にどのように議論されてきたかを紹介します。
「4. 表裏一体の無限」
――――
努力すれば,この言語,そして,論理的にうまく組み合わさって全体として筋の通った解析学を習得することができるだろう.何世代もの学生がこれになじむ過程を経験することで,無限小による過去の忌わしい日々は数学の記憶から徐々に姿を消した.
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単行本p.72
無限に小さいものを無限に足す、無限に小さい値を無限に小さい値で割る。極限が特定の値に収束するとは、厳密には何を意味しているのだろうか。微積分の発見と解析学への展開について解説します。
「5. 幾何学的な無限」
――――
この論証のどこかが分かりにくく不可解だったとしても,心配はしなくてよい.私は,ただ,読者に,同じような混迷に取り組まなければならなかった数学者の身になってもらおうとしているだけである.
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単行本p.90
ユークリッド幾何学においては、あらゆる二本の直線は一点で交わる、ただし平行線は例外とする。しかし、なぜ例外が必要なのか。平行線は無限遠点で交わる、と定義すればいいのではないか。無限の長さや無限の広さを幾何学はどのように扱うのかを解説します。
「6. 物理的な無限」
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実際の無限,それも概念的なものではなく物理的な無限が,許容されているだけでなく,起こりうる真実として存在するような物理学の領域が一つある.それは,宇宙論である.
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単行本p.103
光学における無限、古典物理における無限、そして近代宇宙論における無限。物理学者たちが無限量をどのように扱ってきたのかを解説します。
「7. 無限を数える」
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カントルは,論理的かつ厳密に,数の領域の中においてでさえ,無限にはいくつかの大きさがあるということを立証した.具体的には,すべての実数の個数の無限は,自然数の個数の無限よりも大きいというのだ.(中略)自然数は可算無限であるが,実数は非可算無限なのである.
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単行本p.117
無限の性質に関するカントルの重要な発見はどのようにして立証されたのか。無限をプロセスではなく演算対象として扱えるようにしたカントルの業績について解説します。
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