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『三体II 黒暗森林(上)』(劉慈欣:著、大森望・立原透耶・上原かおり・泊功:翻訳) [読書(SF)]

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 みずからが立案した作戦計画の遂行を指揮する過程で、面壁者が外界に見せる思考や行動は、まったくの偽りであり、入念に練られた偽装とミスディレクションと欺瞞のミックスです。面壁者が欺く対象は、敵も味方も含めた全世界です。
(中略)
 面壁者は、人類史上もっとも困難な使命を担うこととなるでしょう。彼らは全世界、全宇宙に対して心を閉ざし、真に孤独な存在として任務を遂行します。唯一コミュニケーションの相手となり、精神的な支えとなるのは、自分自身です。このとてつもない責任を背負って、彼らは長い年月を孤独に歩むことになります。
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単行本p.124、125


 三体侵略艦隊の太陽系到着まで残すところあと四百数十年。地球防衛のため急ピッチで技術開発を進める人類。だが三体文明が先行して地球に送り込んできたスパイボット「智子」により地球人の技術開発状況、惑星防衛計画のすべては敵に筒抜けだった。阻止不能な諜報活動に対抗すべく、人類は面壁計画を発動。最終決戦に向けたすべての希望は、選ばれし四人の面壁者に託された……。話題の中国SF長編『三体』三部作の第二部。単行本(早川書房)出版は2020年6月、Kindle版配信は2020年6月です。


 まず前作『三体』の紹介はこちら。


2019年10月17日の日記
『三体』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2019-10-17


 前作は対象読者を絞りきれてない印象があったのですが、今作はこれを読むのはSFファンだという確信に満ちています。会話ではヤン・ウェンリーのセリフが引用され、交渉ではハリ・セルダン計画が言及され、展開は『エンダーのゲーム』を期待させる。そして裏切る。


 謎めいた錯綜したプロットがじわじわサスペンスを高めていった前作に比べて、今作は非常にストレートです。何しろ「迫り来る異星人の侵略宇宙艦隊。技術、軍事、諜報、あらゆる面で圧倒的不利な状況に置かれた人類に勝ち目はあるか」という、ミリタリーSFの直球展開ですから。個人的には前作よりずっと読みやすく、面白いと思う。


 さて。人類が太陽系を脱出するならそれもよし、地球に残った人類も無理やり滅ぼすまでのことはあるまい、一世代かけて地球の支配権を引き継げばよい、などと寛大に構えていた三体人。ところが……。


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 おまえの書架に『三国志演義』という本がある……。
「あなたがたはその物語を理解できないでしょう」
 ごく一部は理解できた。門外漢が難解な数学書を苦労して読むように、はかりしれない知的努力を費やし、想像力を最大限に発揮して、ようやく少しだけわかった。(中略)われわれは人類を滅ぼすことを決意したのだ。
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単行本p.42


 よせばいいのに『三国志演義』を読んでしまい、恐怖と嫌悪に震え上がる三体人。やべえよ人類、こいつら一人残らず消し去るまで安心できないよママン。というわけで急遽方針転換。人類討つべし。

 駆逐してやる、という決意を固めた三体人。これで交渉の可能性は消え、人類が生き延びるためには戦って勝つしかないという窮地に。

 必死に頑張って三体文明の技術レベルに追いつく必要があるだけでなく、まず人類の計画をすべて読み取ってしまう敵の「智子」(まあ素粒子サイズの人工知能スパイボットだと思いねえ)に対抗しなければ勝ち目はない。そこで面壁計画が発動する。

 選ばれた個人に作戦の立案と指揮のすべてを託す。記録もなし、説明もなし、議論もなし。面壁者はただ己の頭の中(ここだけは智子にも覗けない)で地球防衛計画を立案し、指揮しなければならない。それも三体人を欺くために他の人間すべてを騙し、嘘をつき、ぎりぎりまで真意を隠す。もうやけっぱちとしかいいようがない。

 こうして人類を代表する四人の面壁者が選出されるのですが、中国から選ばれた面壁者は、他の三名に比べて業績も能力も大したことはなく、なぜ選ばれたのか本人にも分からない。でもまあいいや、というわけで他の面壁者が全力を振り絞って戦いの準備を進めているというのに、彼だけは仕事もせず引きこもって、だらだら暮らしている。

 もちろん読者は知っている、これは物語の類型。三体文明に打ち勝って漢王朝を築くのはこいつだ。というわけで下巻に続きます。





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