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『三体II 黒暗森林(下)』(劉慈欣:著、大森望・立原透耶・上原かおり・泊功:翻訳) [読書(SF)]

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「宇宙は暗黒の森だ。あらゆる文明は、猟銃を携えた狩人で、幽霊のようにひっそりと森の中に隠れている。そして、行く手をふさぐ木の枝をそっとかき分け、呼吸にさえ木を遣いながら、いっさい音をたてないように歩んでいる。(中略)この森では、地獄とは他者のことだ。みずからの存在を曝す生命はたちまち一掃されるという、永遠につづく脅威。これが宇宙文明の全体像だ。フェルミのパラドックスに対する答えでもある」
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単行本p.298、299


 面壁計画は破綻。だが人類のテクノロジーは飛躍的に発展し、地球防衛艦隊も完成した。三体文明艦隊の太陽系到着まで二百年を残す頃、先鋒である探査機が太陽系に到着。ついに人類と三体文明の物理的ファーストコンタクトのときがやってくる……。話題の中国SF長編『三体』三部作の第二部。単行本(早川書房)出版は2020年6月、Kindle版配信は2020年6月です。


 前作『三体』および上巻の紹介はこちら。


2019年10月17日の日記
『三体』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2019-10-17


2020年10月14日の日記
『三体II 黒暗森林(上)』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2020-10-14


 さて下巻では、まず面壁計画が頓挫する過程が描かれます。やっぱり人類には早すぎたんだ。


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「どうしてこんなことになったんだ? だれにも秘密にしたまま戦略思考に没頭できる面壁者特権は、本来、智子と三体世界に対して使うためのものだった。なのに、きみもタイラーも、その特権を人類に対して使った」
「それについては、なんの不思議もない」レイ・ディアスは窓側の席にすわって、外から射し込む太陽の光を楽しんでいた。「いま現在、人類の生存にとって最大の障害は、人類自身だからな」
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単行本p.62


 一方で地球のテクノロジーは飛躍的な発展を遂げ、情報が敵に筒抜けであっても必勝ゆるぎなし、もはや面壁計画など不要、という謎の自信に満ちている人類ではあった。


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 戦略計画として、面壁計画が完全に失敗したことは歴史が証明しています。それは、人類社会が行った、史上もっとも幼稚で、もっとも愚かなふるまいだったと言っても過言ではないでしょう。(中略)人類文明が持つ力の決定的な成長と、今般の戦争における主導権掌握にともない、面壁計画はもはやあらゆる意味を失っています。人類史の負の遺産とも言うべきこの問題に、とうとうピリオドを打つ時が来ました。
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単行本p.91


 そして三体艦隊到着まで二百年を残した時点で、艦隊から発射された小型探査機が太陽系に到着します。


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「本気であれを追いかけろと?」パイロットがたずねた。
「もちろんだとも。われわれは歴史をつくってるんだぞ!」
「攻撃されたりしませんかね? わたしらは軍人じゃない。実際これは、艦隊がやるべき仕事ですよ」
 ちょうどそのとき、リンギア-フィッツロイ観測ステーションからメッセージが届いた。三体文明の探査機はすでに星間雲に入り、航跡を残した。その進路の正確なパラメーターはすでに計算されている。〈ブルー・シャドウ〉にはただちに移動して目標とランデヴーしたのち、近距離から追尾せよとの命令だった。
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単行本p.165


 三体文明との物理的ファーストコンタクト。ついに人類がつくりあげた最強の宇宙艦隊が発進するときが来た。


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 艦隊は一糸乱れぬ隊形のまま加速すると、巨大な壁となって太陽をさえぎったのち、人類の威光と無敵さを誇示するように、雷雲の力強さで堂々と宇宙を進軍していった。二世紀前、三体艦隊の出発を知ったときから、三体艦隊の影に怯え、抑圧されてきた人間精神が、ついに全面的に解放された。いまこの瞬間、銀河系のすべての星々がその輝きを抑え、静かに見守るなか、人類と神は一体となって誇らしげに宇宙へと漕ぎ出したのである。
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単行本p.183


 ここまで書かれると、何しろSF読者はひねくれものだから、何か悪い予感がしてくるわけです。やばいんじゃないかな……。


 どうなるかは読んでみてのお楽しみにしておきますが、スペクタクルシーンは凄いし、読者の先読み予想を次々と裏切ってくる、二転三転どころか四転五転する巧みなプロットには唸らされます。さすが。


 そして最後のクライマックス、夜明けの墓場でただ一人、拳銃一丁を手に三体文明に立ち向かう最後の面壁者。そうなったら面白いだろうね、とは確かに思ったけど、いやまさか……。


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 泥だらけの濡れた服と乱れた髪を片手で整え、それから上着のポケットをまさぐって、金属の筒をとりだした。それは、装填済みの拳銃だった。
 そして彼は、東の朝陽に向かい、地球文明と三体文明の最後の対決をはじめた。
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単行本p.320


 この無茶なシーンをどうやって成立させるか。そのためのアイデア、周到な仕掛け、巧みに配置された伏線、かなり驚きました。


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『三体II 黒暗森林』は中国でシリーズ中もっとも評価が高い一冊である。主な理由はもちろんハードSFとして、また頭脳戦エンタテインメントとしての完成度が極めて高いということだ。逆転と伏線回収もミステリに負けない。さらに、そのわかりやすさも人気の一因ではないかと思う。
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単行本p.337


 というわけで予想外の結末にたどりつき、まだこの先に第三部があるという最後の驚きが。





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