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『千夜曳獏』(千種創一) [読書(小説・詩)]

 『砂丘律』の著者による最新歌集。単行本(青磁社)出版は2020年5月です。ちなみに『砂丘律』の紹介はこちら。


2019年04月03日の日記
『砂丘律』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2019-04-03


 さて、本書では寂しさを感じさせる作品が印象に残ります。こんな感じ。


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寂寥の具現のように色あせてわさび根茎のホルマリン漬け
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アリゲーターずるずる這ってくるような夕暮れのキッチンでする思考
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絶縁体という単語の、存在の、絶対的なさみしさおもう
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どの蟬も帰るべき巣のないことが流砂のように心を走る
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千夜も一夜も越えていくから、砂漠から獏を曳き連れあなたの川へ
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僕らより長生きをする亀を飼おう。僕らのいない庭を歩くよ
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 他には、短歌らしくないというか、例えばツイッターに書き込まれていたとしたら誰も歌だと気づかないような、さりげない作品が面白いと思いました。


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蚊を殺して蚊取線香を買いに行く コナンの新刊が出ている
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月の裏側の話にたどり着くまでにパンケーキ二枚を食べた
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鍵束は川面のようにひかりつつ箪笥の向こうへ飲まれていった
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たばこへ火さし出すことの、ゆっくりとあなたを殺してあげてるんすよ
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曇りなき眼で曇りなき面を打ってきたから胴たたき斬る
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殺さない程度にしごく、ということをおもって僕は僕を恐れる
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筆を折った人たちだけでベランダの季節外れの花火がしたい
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そしてその夜のことを記すため誰かがまた筆を執るといい
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