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『砂丘律』(千種創一) [読書(小説・詩)]

 砂、水、光。戦場から卓袱台まであらゆる場所に幻景を見る映像的歌集。単行本(青磁社)出版は2015年12月です。


 先日読んだ『光と私語』(吉田恭大)の装丁が印象的だったので、似たような装丁(背表紙を閉じてない)の歌集を読んでみました。こちらは視覚的というか、目を通すだけで映像がありありと思い浮かんでくるような作品が並びます。


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瓦斯燈を流砂のほとりに植えていき、そうだね、そこを街と呼ぼうか
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祈るかのように額づくショベルカー 砂山にいま夕闇が来る
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堤防で一番高いカーブミラーぐおんぐおんゆらす熱い潮風
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閉じられないノートのような砂浜が読め、とばかりに差し出されている
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図書館も沈んだのかい沿岸に漂う何千という図鑑
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海底に夕立ふらず鮃やらドラム缶やら黄昏れている
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海流にかすかにまざるファの音の、音を吸っては膨らむ船の、
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その内に海を満たして水筒はまだあるだろうその海底に
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 日常生活のなかにも、遠い遠い光景が幻のように感じられ。


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寝すごした。朝の港の水紋が五階の天井まで来て揺れる
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カフェラテの泡へばりつく内側が砂浜めいてもドトールここは
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部屋中にシャツを干したらもう昼で、あ、これは雨後の森の粛けさ
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卓袱台に茶色い影が伸びてゆくグラスへとCoca-Cola注げば
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磨いても磨いても鍋 曲面に竹の林がくぐもっている
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水底が、次いで水面がくらくなり緋鯉はいつまでもあかるい
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 そして、幻景から振りかえるようにして、そばにいる人のことを思う作品が感動的なのです。


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みっともないくらいさびしい 砂つもる路肩にうすく鳥の足跡
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月の夜に変電所でみたものは象と、象しか思い出せない
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告げている、砂漠で限りなく淡い虹みたことを、ドア閉めながら
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この濠が海へ繋がっていることのあたりは嘘が深くなってた
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食卓へ君の涙のおちるたび草原は蘇えりまた枯れる
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抱いたあなたが山女魚のように笑うとき僕はきれいな川でありたい
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明日もまた同じ数だけパンを買おう僕は老いずに君を愛そう
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