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『裏世界ピクニック ファイル5 きさらぎ駅米軍救出作戦』(宮澤伊織) [読書(SF)]

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「おまえらが裏世界に行くのは勝手だけど、あたしはもう絶対行かないからな」
「ですよね。わかってます」
 私は鳥子と顔を見合わせて頷いた。
「今日来たのは、次の探検──きさらぎ駅米軍救出作戦の相談のためです」
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Kindle版No.188


 裏世界、あるいは〈ゾーン〉とも呼称される異世界。そこでは人知を超える超常現象や危険な生き物、そして「くねくね」「八尺様」「きさらぎ駅」など様々なネットロア妖怪が跳梁している。日常の隙間を通り抜け、未知領域を探索する若い女性二人組〈ストーカー〉コンビの活躍をえがく連作シリーズ、待望のセカンドシーズン開幕。ファイル5のKindle版配信は2017年6月です。

 『路傍のピクニック』(ストルガツキー兄弟)をベースに、日常の隙間からふと異世界に入り込んで恐ろしい目にあうネット怪談の要素を加え、さらに主人公を若い女性二人組にすることでわくわくする感じと怖さを絶妙にミックスした好評シリーズ『裏世界ピクニック』。ファイル1から4を収録した文庫版の紹介はこちら。

  2017年03月23日の日記
  『裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル』(宮澤伊織)
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-03-23

 最初の四話はSFマガジンに連載された後に文庫としてまとめられましたが、セカンドシーズンは各話ごとに電子書籍として配信することになったようです。おそらく何話か溜まった時点で第2巻として文庫化されると思われます。

 さて、ファイル5はタイトル通り、「ファイル3 ステーション・フェブラリー」において裏世界に残してきた米軍を二人が救出に向かう話です。圧倒的な戦闘力を持つ軍を民間人が救出に向かうというのも変な話ですが、語り手である紙越空魚が持っている「視る力」なしには、どんなに火力があっても無意味。逆に、彼女の支援さえあれば、敵地を突破できる可能性が出てくるのです。


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「本当なのか。それなら状況はまったく違うものになる」
「脱出できますよ、少佐」
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Kindle版No.463


 救出の見返りに強力なアサルトライフルを手に入れた空魚。元ネタの一つであるゲーム『S.T.A.L.K.E.R. Shadow of Chernobyl』で、“フルオート射撃可能な狙撃銃”というチートっぽい銃器を手に入れたときの喜びがふつふつと。

 しかし、ここは裏世界。よく分からない怪物たちの猛攻を退け、もちろん待っているに違いないラスボスを倒すことなしに脱出できるほど甘くはありません。果たして救出作戦は成功するのか。今回のラスボスはどのネットロア妖怪なのか。


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 寄り添う私と鳥子の前まで少佐がやってきた。
「温存してきた燃料をすべて使う。君たちが最後の希望だ。われわれを家に連れ帰ってくれ」
 気圧された私は、何も言えずに頷いた。
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Kindle版No.604


 語り手である空魚のどこか歪んだやばい感じ、主役二人の関係性(一部読者は大いに期待しているらしい)、「裏世界と関わっている民間団体」という新たに明かされた設定、そして空魚が手にいれた強力な銃器。新たな要素は、シリーズをどの方向に引っぱってゆくのか。

 というわけで、「得体の知れない怪異に怯える」という感じだったファーストシーズンに対して、ファイル5はど派手なドンパチから始まります。これがファイル3の「後片付け」の回なのか、それともセカンドシーズンの基調となるのか。今後のシリーズ展開を楽しみに待ちたいと思います。



タグ:宮澤伊織
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