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『静か』(勅使川原三郎、佐東利穂子) [ダンス]

 2017年06月29日は、夫婦でKARAS APPARATUSに行って勅使川原三郎さんと佐東利穂子さんによる公演を鑑賞しました。上演時間60分の作品です。

 最初から最後まで音楽なし、無音の舞台です。

 といっても、実際には天井の照明器具がたてる、ぶーん、というかすかなうなり、上の階で机や椅子を動かす音、そしてもちろん観客席からのざわめき、などが、おぼろげな背景音となって舞台を包み込んでゆきます。

 音を立ててはいけないというプレッシャーのためか聴覚が妙に研ぎ澄まされたようになり、背後にいる観客の「咳払いしたい。やばい。焦って手荷物からペットボトルをこっそり取り出す。キャップをそっと外す。音をたてないように慎重に飲む。ちょっと喉につまる。むせてはいかんむせてはいかんここは我慢」といった動作や心の動きが、なぜか臨場感たっぷりに伝わってきたり。観客同士の共感、連帯感のようなものが、手で触れるような密度に感じられます。

 佐東利穂子さんが手で空間を大きくかきまぜるような動きを繰り出すと、無音ということもあって、まるで濃密な液体のなかにいるような印象を受けます。手足が鋭くかつ滑らかに動くたびに、そこから見えない波がゆらゆらと周囲に広がってゆくよう。

 勅使川原三郎さんの動きは、まるで全身で書道をしているような、強靱で精微に調整されたものを感じさせます。動き出す直前に軌道が確定して、そこを正確に身体がなぞってゆくような感じというか。

 位置取りの変化が巧みで、動いた気配もなくいつの間にか立っている場所が舞台の反対側に移動していたり、ときどき二人の背の高さが変化しているように感じられたり、どうにも捉えきれない。

 片方が前に出て踊っている間、他方が背後でクラゲのように漂って、と思っていたら、後半になると二人が同時に、かつ至近距離で、しかも激しく動くようになります。でもぶつからない。それどころか接触すらしない。どうも微妙に位相のずれた別空間にいるのではないか。

 気が付くと終演だったのでびっくり。体感的には30分くらいに感じられましたが、もちろん二人とも1時間ずっと舞台に立って動き続けたわけで、しかも終演後のトークでは息も切らさず平然と話すわけで、その体力には驚かされます。



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