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『ペルセウス座流星群』(ロバート・チャールズ・ウィルスン) [読書(ファンタジー・ミステリ・他)]

 「不用意に望遠鏡をのぞいたらいけない。向こうもこっちを見返すぞ」(文庫版p.71)

 人間の精神文化に潜む異質な生命、誰にも見えないもう一つの街、謎めいたヒューマノイド達によるアブダクション、密かに人類を支配している異形の存在。話題作『時間封鎖』三部作の著者によるホラー・幻想小説短編集。文庫版(東京創元社)出版は、2012年11月です。

 大ネタを繰り出す馬鹿SFと地味な家族小説を融合させた『時間封鎖』三部作や『クロノリス』といった作品で知られるロバート・チャールズ・ウィルスンの短編集です。といってもSF色はかなり薄く、ホラーあるいはダークファンタジー、いっそ怪奇幻想小説といったほうがしっくりくる短篇が中心となっています。

 共通しているイメージは、私たちの周囲に(あるいは内側に)、超自然的な、異質の存在がさりげなく紛れ込んでおり、そのことに気づいてしまった者はろくでもない運命をたどる、といったようなもの。深淵を覗き込んだら、覗き返された、というような話がメイン。

 街を歩き回るうちに他人には見えないもう一つの街が重なるように存在していることに気づいてしまう『街のなかの街』では、人間のふりをしている邪悪な妖精のような存在によって、主人公は異界に誘導され帰れなくなります。『アブラハムの森』も似たようなパターン。

 『パール・ベイビー』では、異形の存在を産んだ女性が、地下室の奥の深淵からやってきた怪物に出会うことになります。『観測者』は、謎のヒューマノイド達が寝室に侵入してきては主人公をアブダクト(誘拐)し、空飛ぶ円盤(たぶん)につれてゆき身体検査を繰り返すという、「そのまんま」の話。実在する天文学者ハッブル氏を登場させることで微妙にSFの雰囲気を漂わせています。

 いわゆる「人類家畜テーマ」に属する作品もいくつかあります。

 『寝室の窓から月を愛でるユリシーズ』では人間が飼い猫を保護するように、何者かが人類を保護している、おかげで人類には真の自由はなく、そのことに気づくことすら出来ない、という発想をストレートに書いた作品。

 世界の真実を映し出すという鏡を手にいれた主人公が、私たちの周囲を平然と歩き回っている目に見えない支配者の姿を見てしまう『プラトンの鏡』、向精神薬を通じてアリなどの昆虫が私たちを支配していることに気づいてしまう『薬剤の使用に関する約定書』、など、こういう話も昔のSFや怪奇小説によくありましたね。

 比較的SF色が強いのは、『ペルセウス座流星群』と『無限による分割』。前者には『時間封鎖』シリーズに登場する「仮定体」を思わせる存在が出てきますし、後者はいわゆる量子論的不死をテーマにしつつ、中性子星衝突が引き起こすガンマ線バースト(イーガンの長編でおなじみ)による人類滅亡、そして『時間封鎖』的な遠未来への跳躍、という具合にSF的なプロットが使われています。

 どの作品も、何がどうしてそうなったのか明快な説明はなく、設定もほのめかしにとどまり、いつも曖昧な雰囲気のまま終わってしまうので、特にSF寄りの作品については不満が残ります。『時間封鎖』や『クロノリス』の著者ということで大ネタSFを期待すると肩すかし気味なので、どちらかといえば古めのホラー・幻想小説を好む読者にお勧めしたいと思います。

[収録作品]

『アブラハムの森』
『ペルセウス座流星群』
『街のなかの街』
『観測者』
『薬剤の使用に関する約定書』
『寝室の窓から月を愛でるユリシーズ』
『プラトンの鏡』
『無限による分割』
『パール・ベイビー』


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