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『空が分裂する』(最果タヒ) [読書(小説・詩)]

 「感情はただの乱れでしかないけど、その人のそのときにしか生じなかった乱れは、さざなみみたいにきれいだ。/誰にもわからない、わかってもらえない感情が、人の存在に唯一の意味をもたらしている」(単行本p.94)

 死、孤独、傷心について、ひたすら観念的につづりゆく思春期あふれる詩集。単行本(講談社)出版は、2012年10月です。

 まず本書「第一部」として収録されている表題作ですが、これは別冊少年マガジンの連載ということで、詩とイラストのコラボレーション作品となっています。詩の一篇一篇にイラストが付く、というより見開き2ページの絵の上に詩が重ねて印刷してあるのです。で、凄いのは、イラスト担当の面子。

 小林系、市川春子、萩尾望都、山本直樹、古屋兎丸、ワカマツカオリ、冬目景、宮尾和孝、鬼頭莫宏、皆川亮二、田辺ひとみ、伊藤真美、KYOTARO、鈴木央、大槻香奈、片山若子、板橋しゅうほう、志村貴子、平沢下戸、西島大介。

 思わずのけぞるような豪華ラインナップ。さすが講談社。

 ただ、絵の上に白黒反転させた文字を重ねているので、イラストによっては文章が非常に読みにくくなっているのが残念です。

 読者層に配慮してのことか、詩の内容はやたらと観念的。主題はほとんどが死、孤独、人類滅亡(やたらと滅亡します)。思春期の女子がいろいろ思い詰めている様子がひしひしと伝わってきます。

 「女の子なんてもういらないんだって実はわたし知っていた、中性になってぼくら、この世代で人類を滅亡させようじゃないかと発案する。ムーミンが世界に台頭するのもいいね、」
 (『放火犯』より)

 「本当は冬も夏も、さむいとあついだけで区別していた。花の名前を知ることがなくて、死の話、それしかできないことが、ぶらさがっている、頭の上で。明日の食費のことだけを考えれば自尊心が傷つくから、死と生の話で時間をごまかしつづけていた。」
 (『永遠』より)

 「こうげきされるほうがまだましだ 山奥に引越せばだれもおとずれはしない むかえにくるからやっかいなんだ という、この詩をよんでもきっとだれかは、「このひとは本当はさみしいんですよ」と読解するんだろう バーカ」
 (『医学』より)

 し、思春期まみれ。

 おじさんなんだかそわそわしておもわずわだいをかえてごまかしてしまいそうですよ。

 第二部には他の媒体で発表された作品が収録されており、イラストは付いてません。主題の多くは傷心。映像的で、ドラマチックな作品が多いのが特徴です。

 「デリカシーがないといわれてしまった。ドアをあけてしめるとまた向こうにドアがあった。ドアの向こうにまた今度は窓があって、あけて出たら外だった。落ちていくうちにいったいビルに何があったのだろうとおもう。ドアがふたつと窓。窓。」
 (『デリカシー』より)

 「この世でもっとも好きなのは、きみのいない世界、すべてからきみだけが抜けて、なくなった世界で、よかったね、きみは銀河系から出られた、ということにして、きみだけをのけ者にした世界、あるんだよ、知らないの、そこに生まれなくて良かったね」
 (『移住者』より)

 「話すことでしか息ができないんだって、本を読んだり、ひとりで、なにかを作っていては死んでしまうんだって、それだけが明らかだった。青春はすべてだからと、人生のすべてだからと、大人たちに教え込まれ、無意味に語り合うことを崇拝していた。///大人たちは、どうして自殺をまだしていないのだろう。」
 (『夏襲来』より)

 「地球はたくさんの氷河期と絶滅を見てきたんだ、きみの自殺や、きみの絶望を鼻で笑うよ。ぼくも、地球と共感したいからまずは50億年生きたい。きみのことくだらないと思っている。」
 (『50億』より)

 社会なんて発想すらなく、ただむき出しの自分と世界しかなくて、どちらか一方しか存在が許されないような、ひりつくあの感覚。誰にでも思い当たる(よね?)あの思春期の感じが、もうバルブ全開で吹き出してきて、たじろいでしまいます。

 こういう痛々しい若さをまっすぐに自分だけの言葉にしてしまう才能というのは、とてもまぶしい。でもきっと本人はたいへん苦しいでしょうから、うらやましいとは思いません。最果タヒさんが、中年の危機について書いてくれる日が楽しみで、それを心の支えに余生を過ごしたい。

 「目の奥が凍るほど痛い、つらい手紙をありがとうと、書く、そのあと罵倒した。電気を消した後に見たテレビの光が、ずっと壁で震えていた。青く、ひえびえとして、手のひらが動くとそこだけあたたまったかのように黒く、にじんだ。ねずみ年、花火を持って出るとそとはさらに暗く、そして冷たい。火をつけて放った、回転しながら花火は、空を落下し地面にしずんだ。あかいあおいおれんじのしろいきいろ、光。」
 (『花火、逝く』より)


タグ:最果タヒ
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