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『月夜にランタン』(斎藤美奈子) [読書(随筆)]

 文芸評論家、斎藤美奈子さんが、2006年から2010年にかけて、『ウフ.』、『ちくま』、『週刊現代』で連載した時事ネタ読書コラムをまとめた一冊。単行本(筑摩書房)出版は2010年11月です。

 『たまには、時事ネタ』や『ふたたび、時事ネタ』の姉妹編ともいうべきコラム集です。ベストセラーや話題の本、出版界のブームを取り上げ、実際に読んで内容を紹介するとともに、そのブームやら動向やらについてコメントするというもの。

 「第一章 リーダーの憂鬱」では、『美しい国へ』(安倍晋三)、『とてつもない日本』(麻生太郎)など政治家が書いた本をとりあげ、さらには痴漢冤罪、国策捜査、裁判員制度、官僚悪者論、歴史認識問題、地球温暖化懐疑論に至るまで、様々な政治的テーマに関する話題作を読みあさります。

 「第二章 みんな競走馬」では、若者論、団塊世代論、男性の育児、格差問題、おひとり女性の老後、蟹工船ブーム、リーマンショック、婚活、保守化する若者、勝間vs香山のKK論争、といった具合に出版界を賑わしたブームを取り上げ、それぞれ便乗本を大量に生み出す元となった元祖ベストセラーをチェックします。

 「第三章 ブームの御利益」では、『手塚治虫=ストーリーマンガの起源』(竹内一郎)がなぜ馬鹿にされるのか、TVの「演出」と「やらせ」の差をめぐる喧々諤々、日本人が大好きな桜本、お掃除に間運パワーを求める人々は何を考えているのか、ケータイ小説は実際のところどーなのか、検定本がなぜウケているのか、といった話題から、今どきの地図帳、源氏物語本、鉄道や工場萌え、美少女イラスト入りお勉強本、といったあたりまで様々な本を読んで語ります。

 この作者にしては毒舌は控えめになっていますが、もちろん辛辣なコメントも珍しくありません。

 『愛の流刑地』(渡辺淳一)が(バブリィ『失楽園』に比べて)いかにしょぼくオヤジの消沈ぶりを反映しているか、『女性の品格』(板東眞理子)はつまり平成版「女大学」説教本であるとか、脳科学本とはノー科学本であるとか、『1Q84』(村上春樹)は結局「強姦小説+妊娠小説」だとか、ケータイ小説を「「大昔のレディコミの腐ったようなヤツ」といった褒めすぎかしら」(単行本p.231)とか。

 というわけで、世間や出版界のブームを振り返って懐かしむも良し、そこそこ辛口な斎藤コラムを楽しむも良し、正月に読む本を選ぶための読書ガイドとして活用しても良し、数十冊のベストセラーや話題作の概要を知って「世間様の話題にちゃんとついてってるオレ」に安心感を覚えるも良し。

 もちろん「知ったかぶり」に使って知的で情報強者な自分をアピールするために読んでも構いませんが、今さらここら辺の話題をふると逆効果になる恐れが高いので気をつけましょう。


タグ:斎藤美奈子
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