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『きのこのほん』(鈴木安一郎) [読書(教養)]

 富士山麓の森林で撮影された色鮮やかなキノコ写真集。単行本(ピエ・ブックス)出版は2010年10月です。

 ふと気づけば、どうやら世の中はキノコブームらしいのです。書店に行けば、キノコ雑学本、キノコ写真集、キノコ料理本などが平積みになり、TVでもネットでもキノコ愛好者たちが菌類愛について熱く語っています。関係ないけど「珍しいキノコ舞踊団」も結成二十周年です。

 ニュースにだって、うっかり油断すると菌糸が伸びていたりします。
 「2010年9月7日、ロシア北部の森林地帯で、電気系統故障のため出力を完全に失った旅客機が、閉鎖状態の空港に緊急着陸を試み、滑走路を約二百メートルオーバーランして森の中で止まるという、奇跡の生還をなし遂げた。ようやく救援隊が駆けつけたとき、乗客たちはキノコ採りをしていた」

 依怙地になって世のブームにわざと背を向けるような偏屈者にはなりたくないので、私もキノコ写真集を一冊購入して読んでみました。それが本書です。

 富士山麓を大きく東西南北の4エリアに分け、それぞれのエリアで撮影したキノコの写真が掲載されています。

 真っ赤に熟したイチゴのような、宇宙船のようにメタリックに輝く、ネオンサインのようなレモンイエローの、モデルがスラリと伸ばした白い手のような、進化系統樹のように枝分かれした、ピーナッツクランチをまぶしたチョコパンのような、現代アート作品のように絶妙なフォルムの、とにかく美しく印象的なキノコの数々。何でこんなものがなにげなく森の中に転がっているのでしょうか。

 「図鑑くささ」を避けるためか写真にはいっさいのキャプションが添えられておらず(写真の説明は別ページにまとめて掲載)、しかもサイズが大きめ(1ページに写真1枚というのが平均で、しばしば見開き2ページでどどーん、と)。その色と形の豊富さには驚かされます。

 キノコ博士、保坂健太郎氏によるキノコ雑学コラムも載っていて、これがオマケとは思えないほど面白い。

「ナラタケというキノコの1種は、地下にのびる菌糸のコロニーが数キロ四方にもわたり、その重量は1000トンを超えると推定されています。(中略)つまり世界最大の生物、ということになるようです」(単行本p.106)

「約4億年前のデボン紀から発見されている、高さ9メートルを超えるなぞの生物化石、「プロトタキシテス」が、実はキノコなのではないか、という説もある」(単行本p.107)

「極端な例では1000を超える性が、1種のキノコから知られています。このときのパートナーとして適した条件はただ一つ。相手が異なる性であるということだけです」(単行本p.107)

「最近の研究によると、森林の樹木は同じ種も違う種も全てが菌根を通じて、菌類の菌糸でつながっている、という可能性も示されています。人間の目には見えない地面の中で、すべての樹木が網の目のように広がる菌糸でつながっている」(単行本p.109)

 キノコすげえや。

 色も形も様々な美しいキノコの写真を眺めているうちに、この世に動植物が存在する理由が分かったような気がしてきました。つまり、植物は(光合成が出来ない)キノコに栄養分を提供するために存在しているのです。動物は(移動できない)キノコの胞子を遠隔地まで運ぶために存在しているのです。地球生態系の全ては、実はキノコが自らの生存のために作り出したのです。人類が知能を獲得した目的はただ一つ、キノコを賛美するためだったのです。

 キノコすげえや。

 あらぬ妄想はさておき、不思議で美しく魅力的なキノコの写真がいっぱいに詰まった素敵な写真集です。キノコ愛好家のためというより、むしろアートとして鑑賞したい一冊。今年のクリスマスプレゼントにどうぞ。


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