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『ヘミングウェイごっこ』(ジョー・ホールドマン) [読書(SF)]

 『SFが読みたい!2010年版』において、ベストSF2009海外篇第十五位に選ばれたホールドマンの異色SF長篇。単行本(福武書店)出版は1991年、私が読んだ文庫版(早川書房)は2009年に出版されています。

 ジョー・ホールドマンと言えば、一兵士の立場から宇宙戦争(のふりをしたヴェトナム戦争)をリアルに描いたヒューゴー賞受賞作『終わりなき戦い』を読んで大感激。てっきり続編だと思って、同じくヒューゴー賞を受賞した『終わりなき平和』を読んでみたら全然別の話だったのでがっかり。なあんていう思い出も、今となっては懐かしい限りです。

 そんな“終わりなき”作家ホールドマンの作品は前述の『戦い』と『平和』しか読んだことがなかったのですが、実はヒューゴー賞を受賞した長篇がもう一作あると知って、あわてて読んでみました。それが本書です。

 売れない作家にしてヘミングウェイ研究家でもある主人公は、酒場で出会った詐欺師の口車に乗って、有名な「ヘミングウェイの紛失原稿」の贋作詐欺に取り組むことになる。若いころのヘミングウェイが使用していたのと同型のタイプライターと古い紙を手に入れ、専門家としての知識を注ぎ込んで、ヘミングウェイの失われた原稿を偽造してゆく主人公。

 ところがそこに、ヘミングウェイの姿を借りた、神だか悪魔だか未来人だか何だかよく分からない超越者が登場して、贋作を中止するように要求してくる。それが世に出れば、多くのパラレルワールドに壊滅的な悪影響を与えてしまうというのだ。要求を拒否した主人公はあっさり殺されるが、気がつくと別のパラレルワールドにいる別の「自分」に意識が合流していることに気付く・・・。

 何度殺されてもその度に別の時間線にいる「自分」に合流することで決して死なず記憶も失わない主人公。ついにあきらめた超越者は、贋作を中止してくれたらタイムトラベルによりヘミングウェイが原稿を紛失したその現場に送り込んで真相を見せてあげよう、という割と腰の低い申し出をするのであった。お気の毒。

 ヘミングウェイ贋作という詐欺小説として始まる作品ですが、何しろホールドマンはヘミングウェイ研究家でもあるそうで、前半はまさに水を得た魚のような雰囲気。ヘミングウェイに関する数々のトリビアと共に、原稿を偽造する過程が詳細に、そして楽しげに書かれています。作中に登場する贋作原稿がそのまま掲載されているのも、いかにもファン小説っぽくて嬉しそう。

 途中からパラレルワールドSFへ、続いてタイムトラベルSFへと強引に展開し、そこに妻と愛人と詐欺師を巻き込む四角関係といった定番メロドラマがこれまた楽しげに挟まれ、濡れ場あり、アクションシーンあり、もちろんホールドマンですからヴェトナム戦争シーンあり、という具合に何だか好き勝手に投げ込んでプロットが大混乱している観が強い後半ですが、不思議と腹は立たない、というより愉快です。

 まあ、「贋作ゲーム」に「タイムトラベル」がからむとなればオチは決まってるも同然なわけで、その見え見えのオチまでどれだけ読者を飽きさせず引っ張ってゆくかが問題になります。こういう混乱した大騒ぎの展開で、何が本筋だかよく分からなくなってきたところで素早くオチに持っていってさっと終わせる、という手際はお見事。

 というわけで、途中で何度か挿入される贋作部分を含めても300ページに満たないごく短い長篇ですが、最初から最後まで作者の趣味まるだしという異色SF。私は微笑ましいと思いましたが、読者によっては腹立たしく感じるかも知れません。ヘミングウェイかホールドマンか、どちらかのファンなら問題なし。あと「色々な要素が無造作に詰め込まれているせいでテーマ分類が困難な、あえて言うなら“変なSF”」が好きな方にお勧めします。


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