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『SFマガジン2010年11月号 ハヤカワ文庫SF創刊40周年記念特集 Part.II』 [読書(SF)]

 SFマガジンの2010年11月号は、先月に引き続き、創刊40周年を迎えたハヤカワ文庫SFの特集号。ハヤカワ文庫SF完全リスト(下)に加えて、80年代以降に話題となった人気作家の短篇四作を掲載してくれました。長いこと埋もれて伝説化していた一作を除いて他は全て本邦初訳という、内容はともかくとして新鮮な作品ばかり。

 まずは、『ジャッジメント・エンジン』(グレッグ・ベア)。百億年をこえる超遠未来に、データ人格として「復活」させられた男が主人公。既に宇宙は終末期をむかえており、人類の末裔たちは残されたわずかなエネルギーを使って自分たちの意識を次の宇宙サイクルへ送り込む計画を進めている。そこで生じた思想上の争いが深刻化し、解決困難な倫理ジレンマに陥った彼らは、再構成した古代精神つまり主人公に「調停」させようと試みたのだが・・・。

 百億年先という超遠未来の風景から始まる導入部にはわくわくさせられるのですが、肝心のストーリー展開がちょっと肩すかし気味で(最後の審判、原罪、世代間闘争、痴話喧嘩、と進みます)、竜頭蛇尾の感は否めません。というか、そこがグレッグ・ベアらしいという気もしますが。

 次は『温かい宇宙』(デイヴィッド・ブリン)。人類の多くが超伝導プロセサ上で思考するロボット/サイボーグ化されている未来。宇宙開発や科学研究の最前線を彼らニュータイプに独占されたオールドタイプ(原生人類)たちは、未来に絶望して無気力に生きている。そんな時代。

 ついに超光速航法が開発されたものの、何度トライしても搭乗員たちが全滅してしまうという深刻なトラブルが発生。調査しても死因は不明。自棄になった上層部は、試しにオールドタイプを乗せてみようということになり、こうして主人公はこれまで誰一人として生還したことのない超光速航行へ生身の身体のまま挑むことになる。オールドタイプの意地をかけて。

 アシモフやニーブンの短篇を連想させる、いかにも古めかしいアイデアストーリーです。基本アイデア(搭乗員たちの死の原因)は無茶なんですが、だっていくら何でもこれを見落とすというのはあり得ないでしょう、でも、何しろ、ほら、読者もいい歳なんで、「オールドタイプを馬鹿にするな。宇宙はわしらのもんじゃ」という作品を読めば嬉しい、という習性からは逃れられません。楽しめました。

 そして『手を叩いて歌え』(オースン・スコット・カード)。大富豪となった老齢の主人公は、若いころに戻って初恋の相手と一夜の思いを遂げようと、タイムマシン(精神のみ過去に飛ばすタイプ)に乗り込んで、若いころの自分に乗り移る。

 典型的なタイムトラベル・ラブロマンスです。ちょっとしたひねりが加えられており、オチはけっこう意外。悪くはないのですが、何というか、80 代の老人が「青春の思い出」みたいな言い訳で14歳の女の子を騙してヤっちゃう話を無理やり純愛ロマンスに仕立てる強引さに、ちょっと引いてしまいます。その女性観も含めて、いかにもオースン・スコット・カードらしい作品。

 最後は『ジョージと彗星』(スティーヴン・バクスター)。あるとき目覚めた主人公は、自分がヒヨケザルになっていることに気付く。世界には一本の木と草原しかなく、空には終末期の太陽と巨大な彗星。どうやらここは50億年後の太陽系らしい。誰が、何の目的で、彼を「復活」させたのだろうか。謎を探るべく、世界樹から降りて地の果てを目指して走り始めた彼だったが。

 フィリップ・ホセ・ファーマーの『リバーワールド』を彷彿とさせる設定ですが、そこはやはりバクスター。宗教的寓意はほとんど感じられず、壮大っぽいハードSFとなっています。主人公を「復活」させた存在は出てきませんが、それが仕出かした数々のミスが微笑ましく、神というより納期に追われたプログラマみたいな雰囲気なのが妙に可笑しい。壮大な設定、地味な展開。バクスターの持ち味が堪能できる好短篇だと思います。

 この四篇が選ばれた基準はいま一つよく分かりませんが、「遠未来に“復活”させられた主人公」、「時代に取り残された主人公の悲哀」といったモチーフが共通しているのは、おそらく偶然ではないでしょう。(追記参照)

 実は「自分はクールで知的でイケてる若きサイファイだと思っていたのに、ふと気がつくと、時代の流れについてゆけない依怙地なオールドSF者に成り果てているではないか。どうしよう」という問題意識こそが、80年代以降のSFにおける主要テーマなのかも知れません。

追記(2010年10月01日)
  作品選定に関わった山岸真さんからコメントを頂きました。
  「「モチーフが共通している」のはただの偶然です」とのこと。


[掲載作]

『ジャッジメント・エンジン』(グレッグ・ベア)
『温かい宇宙』(デイヴィッド・ブリン)
『手を叩いて歌え』(オースン・スコット・カード)
『ジョージと彗星』(スティーヴン・バクスター)


タグ:SFマガジン
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