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『リーマン予想 -天才たちの150年の闘い』(NHK) [映像(映画・ドキュメンタリー)]

 2009年11月15日(日)21:00 - 21:49に放映されたNHKスペシャルがDVD化されていたので、見てみました。数学の最難問とも言われる「リーマン予想」についてのドキュメンタリーフィルムです。

 正直言って「リーマン予想」(ゼータ関数の自明でない零点は、全て実部が1/2の直線上に存在する)なんてものをどうやって一般向け番組にするのか想像も出来なくて、おそらく数学者たちの情熱を描くヒューマンドキュメンタリーにするんだろうな、などと思っていたのです。

 確かに、この難問に挑戦し続けている米パデュー大学の数学者ルイ・ド・ブランジュが最初と最後に登場しますが、それが中心という構成にはなっていません。リーマン予想の意味と重要性を、一般視聴者にそれなりに理解させる、というのが番組の狙いとなっており、数式やグラフも登場します。その逃げない姿勢は立派。

 そのためにCGIを使った数学概念の視覚化を行うのですが、こんな感じ。

 まず、自然数を並べた数直線を「道路」として見せます。素数は白く、他の数は黒く塗られており、この「道路」の上を視点が高速に走ることで、白の配置に明確な規則性が見られず、まるでデタラメに並んでいるとしか思えないということを強調します。

 次に、この「道路」を、素数が現れるたびに一段ずつ昇る「階段」にして見せます。素数は無限にありますから、この「素数階段」は無限の高みに向かって延々と伸びて行くわけです。

 そこに現れたのが、若き数学者ガウス氏。彼は「素数階段」を登りながら、一段上がるごとに地表からの高さを図ります。そして、自分がいる階段に書かれている数字と、その高さ(それまでに現れた素数の個数)を比較するのです。奇妙なことに、両者の関係はごく簡単な数式で表せそうに思える、ということが示されます。

 ある与えられた自然数とそれより小さい素数の個数に何らかの関係が成り立つらしい、ということは、素数の配置は全くのランダムではなくて、少なくとも登場する頻度について規則性があるらしい、ということが分かります。つまりこれが「素数定理」の視覚化というわけです。

 こうなると、素数の配置パターンにも何らかの規則性があるに違いない、それを見つけたい、という気分が盛り上がります。そこに、オイラーが見つけた「素数を使って作った無限級数」が登場し、それをリーマンが拡張して(複素関数への拡張なんですが、この番組では複素数については完全な沈黙を守りますので安心して下さい)、こうして出来た「ゼータ関数」と呼ばれる関数のグラフをイメージ化して見せます。

 波うつ海面のようなゼータ関数グラフですが、いくつか「零点」と呼ばれるポイントで深い穴のように凹んでいる様子が見られます。そして視点をぐるりと回転させながら引いて眺めてみると、何とその「零点」が一直線上に並んでいる、ということを強調します。これが「リーマン予想」の視覚化です。

 ゼータ関数は素数を使って定義されていますから、そのゼータ関数に際立った特徴(零点が一直線に並ぶ)があるなら、それこそが「素数の配置パターンの規則性」ということになります。さあ、後はそれを証明するだけです。

 続いて、リーマン予想の証明に取り組んでは挫折した数学者たちの姿を見せ、ときに自殺や発狂まで含む様々な悲劇を紹介。あまりの惨状に「リーマン予想に取り組むのは自殺行為」として数学者たちが避けるようになってきた頃、数学者ヒュー・モンゴメリーと物理学者フリーマン・ダイソンの出会い(二人の出会いのシーンを再現して見せます)により、大発見がなされるのです。

 何と「ゼータ関数の零点分布の数式」と、「原子核のエネルギー間隔を表す数式」が、一致するというのです。もしこれが偶然でないとすれば、素粒子物理学のどこかに素数の配置が隠れているということが強く示唆されますが、その意味は今でも分かっていません。数の基礎である素数と、物質の基礎である素粒子。その関係が解明されたとき、物理学者たちの見果てぬ夢「万物理論」が完成するのかも知れません。

 その一方で、リーマン予想に関する数学者の会合に出入りする、アメリカ国家安全保障局(NSA)のエージェントたち。もしも素数の秘密が暴かれたら、現代の経済や軍事を支えている暗号技術が全て台無しになるかも知れないためです。もし何か画期的な大発見があったら、NSAはそれを国家機密に指定して隠蔽してしまうのでしょうか。いや、もしかしたら既に・・・。

 というわけで、難解な数学概念を視覚化して誰にでも理解できるようにする、という意欲的で誠実な仕事ぶりに感服させられる番組です。

 ここまでの紹介を読んでも興味を引かれなかった方は、たぶん見ても面白くないでしょう。しかし、素数の配置に隠されている規則性、それを探し求めてきた数学者たちの奮闘努力、1970年代になって発見された素数と素粒子との不可思議な関係、などの話題に興味がある方なら楽しめると思います。


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