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『歩兵型戦闘車両ダブルオー』(坂本康宏) [読書(SF)]

 先日読んだ『稲妻6』がけっこう面白かったので、同じ作者のデビュー作を読んでみることにしました。さすがに、最初から、主人公が「変身!!」と叫んで超人ヒーローになって戦う、なんて話を書いていたわけではないでしょう。

 その日本SF新人賞佳作入選作『歩兵型戦闘車両ダブルオー』ですが、小松左京さんに激賞されたそうで、どんな本格SFかとわくわくしながらページをめくると・・・。

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 ときは1999年。失業して困っていたところをスカウトされ、環境庁の臨時職員となった三人の若者がいた。彼らは、環境保護のために開発されたという特殊車両のパイロットとして特訓を受けることになる。

 九七式特務作業車「甲」、九八式装甲車「乙」、そして九九型巡行戦闘車「丙」。しかし、これらの車両には秘密があった。三人の知恵と力と勇気が一つになるとき、甲・乙・丙は合体して、00式歩兵型戦闘車両、通称「ダブルオー」となるのだ。

 おりしも街を襲う巨大怪獣。自衛隊の総攻撃でも歯が立たない強敵を前に、ついに三人に環境庁から出動命令が下る。地球(環境)を守るために、(予算内で)戦え、ダブルオー。放て、必殺の、絶対崩壊ゼロバスター!

 ゆくぞ、三機合体、「チェンジ、ダブルオー!!」
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 ぱたっ。本を取り落としそうになりました。

 いや、私も初代ゲッターロボは嫌いではありません。というか好きです。しかし、だからといって、これは・・・。いや書いても構いませんが、それを日本SF新人賞に応募してしまうというのは、いかがなものでしょうか。

 作者もその辺は理解しているらしく、作中にこのように書かれています。

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 そう、合体ロボットが怪獣と戦うなんて物語は、どんな恥知らずな小説家でも、想像はしても書くことはしないに違いない。下手な三文小説に終わる事が目に見えているからだ。(単行本p.76)
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 そこまで分かっていて、あえて書くのか、康宏。そうか、それなら父さんもう何も言うまい。好きなようにしろ。

 というわけで、読み進めると、これが意外にも、面白いのです。絶体絶命のピンチを三人が力を合わせてくつがえしてゆく、その当たり前というかテンプレートのような展開が、こう、心のツボを心地よく刺激してほぐしてくれるというか。

 小説としての欠点は数多くあります。展開はぎこちないし、脇役キャラクターが類型的に過ぎるし、最後は失速ぎみで物語をきちんと畳むことが出来ずごまかして終わってしまうし、構成力の不足は否めません。

 しかし、読んでいて、作者が本気でこの話が好きだという気持ち、これを書くため作家になるのだという気概が、ひしひしと伝わってきて、どうしても好感を持ってしまうのです。なるほど。日本SF新人賞に選ぶには後ろめたさがあるものの、佳作には残してやりたい。選考委員たちはそう思ったのではないでしょうか。

 というわけで、冗談でもパロディでもなく、ラノベ的「お約束」に甘えることなく、本気で丹念に書かれた巨大ロボットもの。小説としてはまだまだですが、作者と波長の合う人なら大いに楽しめる一冊です。実を言うと、私はすごく気に入りました。同じ作者のさらに他の作品も読んでみようと思います。

タグ:坂本康宏
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