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『私という病』(中村うさぎ) [読書(随筆)]

 中村うさぎさんの長編エッセイ。先に文庫化された『芸のためなら亭主も泣かす』を“白うさぎ”とすれば、こちらは“黒うさぎ”に相当する一冊。単行本は2006年3月、文庫本は2008年8月に出ています。

 人気女性作家のデリヘル体験記ということで大いに話題になりましたが、一読すればお分かりの通り、それ自体は本書の主眼ではありません。体験記は最初の1章だけのごく短いものだし、実際、大したことは書いてありません。変な期待を持って読むのは止めましょう。

 本書のポイントは、著者が、自らの体験を通じて、自我の問題について徹底的に考えつめるところです。

 自分の「価値」を確認せずにはいられない、他者からの「承認」を受けないと生きられない、そのためなら自己破壊的な行動であろうとやってしまう、やらずにはいられない、そんな自らの内にある衝動の正体について著者は考え続け、書き続けます。それはもう、読んでいて苦しくなるほど徹底的に。その凶暴なまでの、自分に対する正直さ、そして読者に対する誠実さ。

 「自分の存在価値を他者から承認されたい」、もっと言えば「自分が生きていてもいい、ということを誰かに確認してもらいたい」という強迫観念は、多かれ少なかれ誰もが心の底に持っているのではないでしょうか。

 だから、中村うさぎさんが、自我探求の試みと思索から、多大なる犠牲と引き換えに持ち帰ってくれた言葉を、私たちは真摯に真っ直ぐに受け取るべきだと思います。それは、人が自分に対して正直に生きようとすれば、きっと必要になる言葉だと思うのです。

 なお、中村うさぎさんは、普段はあまり男性批判は書かないのですが(たぶん主要読者層を意識して)、本書においては男性への異議申し立て、というか怨嗟の叫びが容赦なく書かれており、たじろいでしまいます。男性読者は、きちんと受け止める覚悟で読みましょう。

 そういうわけで、本書は“黒うさぎ”を代表する一冊です。中村うさぎを軽いおふざけエッセイストだと思っている人、受け狙いの軽薄なパフォーマーと見なしている人は、ぜひ本書や『愚者の道』、さらには『さびしいまる、くるしいまる。』や『女という病』あたりの“黒うさぎ”を真摯に読んでみてほしいと思います。
 
 “黒うさぎ”は読んでいて楽しい本ではありませんが、性別を問わず多くの読者にとって決して他人事ではない、一部の人にとってはそれこそ生きるために欠かせない武器となる、そういう文学だと思うのです。

タグ:中村うさぎ
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