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『コンドルズ血風録! タイムイズオンマイサイド』(勝山康晴) [読書(小説・詩)]

 日本のコンテンポラリーダンス業界に忽然と現れたかと思うや瞬く間に席巻し、そのままの勢いで世界に羽ばたいていった「コンドルズ」。現在、おそらく日本最大の集客数を誇るコンテンポラリーダンス・カンパニーです。

 本書は、その結成からメジャーデビューまでの歴史を、コンドルズの創設期メンバーにしてプロデューサーである勝山康晴さんが小説として書いたもの。単行本は2003年10月、私が読んだ文庫版は2008年8月に出版されています。

 読んでみると、これが青春小説として良く書けています。後にコンドルズのリーダーとなる近藤良平さんが住んでいた崩壊寸前のボロアパートに、次々と奇人変人が集まってきて、次第に若く強烈なエネルギーが渦巻いてゆく前半。コンドルズが結成され、怒濤の快進撃が始まる後半。いずれも読んでいて熱くなります。

 「この物語は事実に基づいています。ただし、美化、劣化している箇所がございます」と注釈がついていますが、美化劣化というよりむしろ茶化。何しろ登場人物がとてつもない××××ばかりで、また作者がノリノリでツッコミを入れるもんだから、読んでいて「大丈夫なのかこいつら」と心配になるほど。

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 その頃の俺は大学生にありがちな無軌道な「バカ騒ぎ」に辟易していただけに、「バカ騒ぎ」とは違う、一本気な「熱いノリ」にどんどんハマっていったのである。
(文庫版p.41)
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と書かれていますが、読者も気持ちは同じ。ただ無責任に騒いでいるのではなく、人生そのものを真剣かつ脱力な姿勢で押し切ってしまえという、熱いノリ。何と言うか“力の抜けた馬鹿力”にあふれています。よいこは真似しちゃ駄目ですよ。

 それにしても近藤良平という人は凄い。ダンサーとして凄いことは舞台を観ていれば分かりますが、リーダーシップというかカリスマ性というか、とにかく人を巻き込んで何かをなし遂げてしまう力がずば抜けていることがよく分かります。

 以前、『情熱大陸』だったか、コンドルズを扱ったTVドキュメンタリー番組に出た近藤良平さんが「コンドルズの公演を観た観客が、元気を出して明日も頑張って会社に行こう、と思うようじゃダメなんです。僕たちが目指しているのは、観客が、明日から会社を止めてしまおうと決意するような舞台なんです」といったことを真顔で語っていましたが、本書を読んでその意味が何となく分かったような気がしました。気のせいかも知れませんが。

 公演の様子やダンス業界について詳しいことはわざと書いてないため、コンドルズやコンテンポラリーダンスを全く知らない方でも、青春小説として問題なく読めると思います。大槻ケンヂのロック青春小説とか好きな人にお勧め。

 なお、私は単行本を読んでないのですが、説明によると「本書はその超大幅加筆改訂版、前人未到の新作同然文庫版である」とのことなので、単行本を読んで気に入った方も、改めて文庫版を買う価値があるかも知れません。

 あと文庫版には、巻末に「超緊急速報!! 続巻『コンドルズ血風録! ウイーアーザワールド』堂々完全新作。近日執筆開始予定」とか見開きで予告編が載っています。「近日執筆開始予定」のどこが「超緊急速報」なのか意味不明ですが、これはコンドルズの舞台を観た人なら笑えるネタ。続編を楽しみに待ちたいと思います。

タグ:近藤良平
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