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『限りなき夏』(クリストファー・プリースト) [読書(ファンタジー・ミステリ・他)]

 デビュー作から最近の作品まで傑作揃いの8篇を収録した、クリストファー・プリーストの素晴らしき短編集。もう最高です。

 『奇術師』が映画化され、『双生児』が「ベストSF2007海外篇」の第1位に選ばれるなど、このところ大いに注目を集めているクリストファー・プリースト。数冊の長編を読んで、その魔術的とも思える巧みな構成、読者を幻惑する文章の魅力に、私もすっかりやられてしまいました。

 しかし、長編が得意な作家が、必ずしも良い短編を書くとは限りません。はたしてプリーストの短編はどんな感じなのか。長編で見せてくれたあの手際が、短い作品でも発揮できるのか。

 若干の危惧を持ちながら読み始めましたが、すぐに驚嘆することになりました。どれもこれも衝撃的な傑作揃い。もちろん傑作選なんですが、それでもこの水準の高さは異常でしょう。

 8篇は大きく3つのグループに分かれています。

 まず「逃走」と「リアルタイム・ワールド」の2篇が1970年代前半までに書かれた初期作品。前者はデビュー作で、後者は閉鎖環境における現実崩壊を扱った、ちょっと『逆転世界』に似た雰囲気の作品。さすがに若書きという感じで、他の作品ほどの凄みはありませんが、充分に楽しめます。

 そして「限りなき夏」と「青ざめた逍遥」の2篇が、1970年代後半に書かれた時間テーマの作品。どちらも「時間構造に封じ込められた、一瞬にして永遠のラブロマンス」を扱った感傷的な作品で、この種の作品としては最も印象的なものだと思います。

 最後に「赤道の時」、「火葬」、「奇跡の石塚」、「ディスチャージ」と並んでいるのが、1970年代の終わりから現在まで書き続けられている「ドリーム・アーキペラゴ(無幻群島)」のシリーズから抜粋した作品。

 この4篇はどれもこれも傑作で、夢と現実、記憶と過去、愛欲と幻想、それらが渾然と混じり合って区別できない、何とも言いようがない世界に読者を引きずり込んでくれます。雰囲気と展開は、バラードの作品、特に『ヴァーミリオン・サンズ』を思い出させるところがありますが、プリーストの方が上ではないでしょうか。

 個人的には「奇跡の石塚」が好みです。独特の幻惑感が強烈で、読後しばらく戻ってこられなかったほど。もちろん他の作品も悪くないのですが。とにかくこのシリーズは全て読みたい。

 ともあれ、読んで損のない短編集なので、SF、ファンタジー、ホラー、そういったジャンルは問わず「幻想小説」好きな人には、もう強くお勧めしておきます。読み逃すと損ですよ。


[収録作品]

「限りなき夏」
「青ざめた逍遥」
「逃走」
「リアルタイム・ワールド」
「赤道の時」
「火葬」
「奇跡の石塚」
「ディスチャージ」

タグ:プリースト
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