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『斬首人の復讐』(マイケル・スレイド) [読書(ファンタジー・ミステリ・他)]

 欠陥だらけの愛すべき馬鹿サイコスリラーで悪名高いマイケル・スレイドを、反省もなく読み続けるシリーズ“またマイケル・スレイドを読んでしまった”その6。

 これまで揶揄するような調子で紹介してきたスレイドですが、本作の出来ばえには素直に感心したので、今回はきちんと褒めたいと思います。というわけで、マイケル・スレイド6。

 原住民居住区で発生した暴動が、武闘派の暴走により大規模な武力闘争へとエスカレートしつつあるカナダ山岳地帯。一触即発の危機のさなか、一帯で次々と犠牲者を襲っては首を刎ねるという凶悪連続殺人事件が発生。カナダ連邦警察対外特捜部「スペシャルX」は、武装反乱グループ鎮圧と殺人犯逮捕という2つの難題に挑むはめに。

 一連の事件の背後に、10年前にカナダ全土を恐怖に陥れた殺人鬼「ヘッドハンター」の影を見たディクラークは、かつてヘッドハンターと対決してこれを倒したキャサリン・スパンを警部補に昇格させ、事件の捜査を命じる。

 はたしてヘッドハンターは生きていたのか? 今回の一連の事件との関係は? そして原住民の武装反乱軍と連邦警察の全面衝突という最悪の事態は回避できるのか?

 まず驚くのは、これがスレイドのデビュー作『ヘッドハンター』のストレートな続編だということ。はじめてスレイドを読む人も、第1作をすでに読んだ読者も、両方とも満足させようという無謀な挑戦ですが、何とこれが成功しています。最後の最後に明らかになる真相には、最初からヘッドハンターの正体をよく知っていた読者の方がむしろ驚くはず。

 小説としての完成度は、これまでの作品よりぐっと上がっています。銃撃戦、爆発、追跡劇、危機一髪といった派手なシーンも出てきますが、サービスしすぎで支離滅裂になっていた第5作とは違って、本作ではうまく抑制が効いており、本筋を混乱させることなく楽しませてくれます。

 スレイド作品の特徴である「目まぐるしい場面転換」も、また第3作で読者を激怒させた×オチも、今作ではサスペンスを盛り上げる上で非常に効果的に使われているし。

 キャラクターの描き方も唸らされる出来ばえ。“マッド・ドッグ”や“ゴースト・キーパー”といった、第1作からの常連でありながらこれまで意外と目立たなかった脇役の活躍が実に見事に決まっていて感激です。

 そして、スレイド作品お約束の「ラストのどんでん返し」ですが、今作においては、第1作、第5作、第2作のサプライズエンディングを次々と連続炸裂させたような二重三重のオチが待っていて、これには圧倒されます。

 いや、正直言って、あまりの出来の良さに「ひょっとしてスレイドの名前だけ引き継いで、著者チームのメンバー総とっかえしたのでは」とまで疑いましたが、第3作以降はチーム(「マイケル・スレイド」は複数の作家で構成されるチーム名)メンバーに変更はないようです。各人の作家としての腕前が上達したということでしょう。

 というわけで、これまでずっと「欠陥だらけの愛すべき馬鹿サイコスリラーで悪名高いマイケル・スレイド」と書いてきたわけですが、これだけの作品を読んでしまってはもう「欠陥だらけの」という評価は取り下げて、代わりに「荒唐無稽な」に差し替えたいと思います。ちなみに、残りの文面については何ら変更の必要を感じません。

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