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『親切な郷愁』(松木秀) [読書(小説・詩)]

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さんさんと夜の光のコンビニにいると死なないような気がする
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安全と言えば即座に負けになる原発しりとり 危険でも負け
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「中央線で死ぬことなんてやめてほら日高本線でのびのびと死ね」
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とりあえず花折りすぎと言っておこう古今和歌集少しずつ読む
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事実ではあるがリアルでないことのこの世にあふれ短歌が困る
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 北海道の片隅で怒りと空しさを抱え希望なく生きる若者が、破れかぶれの一撃ねらい、社会や世相に対して皮肉と風刺を投げつける辛辣歌集。単行本(いりの舎)出版は2013年4月です。


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放射能を避ける歌人は西や南ばっかりに行き北へは行かず
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北海道の略図を描けば室蘭は海の藻屑となること多し
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「中央線で死ぬことなんてやめてほら日高本線でのびのびと死ね」
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 北海道という土地柄を自嘲するような、地方に対する日本社会の冷淡さをえぐるような、皮肉のきいた作品がまず目を引きます。そこから、職も希望もない、生活の空しさを吐き出すような作品へと。


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さんさんと夜の光のコンビニにいると死なないような気がする
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「職業に就きたいのだが職業に就くためにまず職歴が要る」
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実感をしてくださいとジャパネットたかたに言われ実感をした
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この世には赤いきつねはいそうだがいそうにもない緑のたぬき
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わたくしが独裁者ならムの音に「夢」を当てはめるのを禁止する
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 やがて空しさは怒りへと転じ、社会風刺という色が濃くなってゆきます。


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安全と言えば即座に負けになる原発しりとり 危険でも負け
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対策と呼ぶかバラマキと呼ぶのかは利権の大きい小さいの違い
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平等に扱ったほうが安くすむ分野においては平等である
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「頑張った」高校野球を讃えたるひとたちが生むブラック企業
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自殺者が三万人を下回る 変死者の数が急に増えてる
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最近の若い者はと吐き捨ててカインはアベルを殺したりけり
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 一方で、短歌そのものと自分との関わり合いを詠んだ作品も記憶に残ります。


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とりあえず花折りすぎと言っておこう古今和歌集少しずつ読む
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事実ではあるがリアルでないことのこの世にあふれ短歌が困る
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私には短歌があるかも知れないと(午後を運命論にかたむく)
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わたくしが短歌を詠みし十五年単なる空白の十五年
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 読んでいると、国政から見捨てられ衰退してゆく地方都市に住み、怒りと空しさを抱えながら短歌に向かう若者の姿が浮かんできます。「単なる空白の十五年」と自嘲しながら、でも止めない。

 ちなみに標題には「SFとオカルトと」「無粋なうた」「あ段だけ使った五首」など印象的なものが多いのですが、何といってもすごいのは「石川美南さんに酷評された五首」でしょう。その石川美南さんに酷評されたという五首のうち、最後の作品をここに引用しておきます。


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愛知県に似たかたちにて猫眠る眠りよ猫も幸福にあれ
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