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『はじめての民俗学 怖さはどこからくるのか』(宮田登) [読書(教養)]

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 現代文明社会の世相のなかに、非合理的思考や神秘主義にたいするあこがれのような心意が存在していることは注目に値する。たとえばお化け、妖怪、オカルトなどが一種の流行現象を示していることにたいして、表面的な現象の基底を流れている文化の伝統の存在を究明しようとする民俗学的態度が必要となるだろう。(中略)こうした妖怪を求める心情は、現代社会においてますますエスカレートしそうな傾向があり、それが日本の民俗的な文化伝統とどのようにかかわっているのか、また現代人の潜在意識とどのようにつながっているのかという問題が生じてくる。現在の妖怪現象の一つ一つに民俗の基層との関連が考えられるのであり、そこに妖怪の民俗学的研究をとりあげるおもしろさがある。
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文庫版p.28、34


 妖怪、都市伝説、オカルトなど「怖い」ものに対する憧れ。その基層には、民俗的な文化伝統との関わりがあると考えられる。現代の民俗学がどのような問題意識のもとに研究しているかを一般向けに紹介してくれる本。単行本(筑摩書房)出版は1991年7月、文庫版出版は2012年8月です。


〔目次〕
1.民俗学とは
2.都市が秘める力
3.再生への願い
4.現代民俗学の可能性




1.民俗学とは
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 これまでの民俗学は、古い珍しいものを発見していくための調査を、暗黙のうちによしとしてきたところがあった。古風な資料だけをおさえようとしたため、現代社会のダイナミズムから取り残されかかっている。そうした態度ではなくて、現実に変化している、というより、現に動いているフォークロアそのものを見つめてゆく姿勢が必要である。(中略)都市だとかムラだとかいった分け方ではなくて、まず私たち自身が生きている「現在」が中心でなくてはならないのである。「現在」という状況のなかで生きる私たちが、それにどう対応してゆくかという姿勢を持たねばならないことになる。だから古い習俗一般を探るという説明をこえて、それが現代にいかなる意味があるのか、そしてそこから近未来の「現在」に向かって問いかけるような民俗学の立場でなければならないのである。
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文庫版p.38、40


 ただ古い習俗を研究するのではなく、私たち自身が生きている「現代」を中心においた民俗学。主に日本における民俗学の歴史とその問題意識をまとめます。


2.都市が秘める力
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 都市の怪異譚はつねに自然と住民との不調和を警告するために、都市の内部から滲出してきたフォークロアとしてとらえられるべき性格があるからである。そういうフォークロアをくり返し語り出そうとしているのは、都市自身がなおケガレを回復しようとする自助の行為とみることができるのである。
 だから「都市伝説」を、たんに珍しい奇事異聞、あるいは軽佻浮薄な風俗現象とだけにみないで、私たちの日常生活の根っこの部分を深く規制しているコスモロジーと結びつけて考えていく必要があるのである。
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文庫版p.120


 なぜ都市部で怪談や都市伝説があれほど流行るのか。民俗学的な研究成果からその深層に迫ってゆきます。


3.再生への願い
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 こうしたキヨメを温存させていた熊野信仰は、いうならばケガレそのものを一身にうけおう力をもっていたのである。熊野信仰の担い手たちは、自らがケガレることによって、キヨメの浄化力をもちえたと解釈される存在であった。古代以来の熊野の神秘的呪力は、近世にはいって急速に拡散されてしまい、各地に断片的なフォークロアを残すだけになってしまったといわれる。
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文庫版p.127


 現代も残る文化習俗の背後には、どのような歴史があるのか。民俗学の研究成果例を紹介します。


4.現代民俗学の可能性
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 ものすべてがコピー化した現象や、人間同士のアイデンティティーの喪失を訴える風潮は、20世紀の終焉をまえに、より表面化している傾向がある。だから現実をオリジナルなものと確認したいとする機運があり、たとえば「民俗」の再確認がたんなる懐古趣味をこえてもとめられてきたといえるのではないだろうか。(中略)
 人びとが極端に神秘的領域に関心をいだきはじめ、統計上でも、霊魂や他界への信仰が増大しつつあるということは、昭和53、4年以後顕著な社会的事実となっている。このこ
とは、もはや止めようもない。現代都市の宿命ともいえるものであり、民俗学の概念からいうとケガレの増幅作用にほかならないのである。
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文庫版p.187


 民俗学は私たちにとってどんな意義があるのだろうか。古い文化習俗と現代の文化現象を連続的なものとしてとらえる見方がどのような可能性をもたらすかを考察します。





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