『SFマガジン2019年2月号 百合特集』(宮澤伊織、他) [読書(SF)]
隔月刊SFマガジン2019年2月号の特集は「百合」でした。おかげでこのような緊急事態に。
2018年12月26日付け早川書房公式ツイートより
――――
SFマガジン百合特集は予約在庫全滅に対応するため、緊急の発売前重版を行いました。しかしその在庫も一瞬で枯渇。よって本日、追加の重版が決定! 3刷目の増刷は1959年の創刊以来、初めての快挙となります。
"百合の時代" 開幕のベルが鳴る――SFマガジン2月号
――――
『キミノスケープ』(宮澤伊織)
――――
メッセージを書いた誰かも、きっとあなたと同じようにするだろう。危険で不便な場所を避けて、安全な場所を見つけながら旅をするはずだ。だとしたら、いつか、どこかできっと巡り会える。あなたはそう考える。
もう圏外としか表示されないスマホで、メッセージの書かれた絵の写真を撮って、あなたは美術館を後にした。その写真は旅の間ずっと、あなたのお守りとなり、心の拠り所となる。あなたは何度も何度も写真を眺め、画面に触れ、話しかけ、胸に抱いて眠る。
――――
SFマガジン2019年2月号p.18
突然、世界から自分以外の人間が消えてしまうという異変に遭遇した「あなた」。無人の街をさまよい歩くうちに、残されていた誰かのメッセージに気づく。誰かが過ごした痕跡も見つかることがある。「あなた」は、まだ見ぬ「誰か」を求めて、変容してゆく異形の街をひたすら歩き続ける。裏世界、というか中間領域で、「誰か」に巡りあえなかったもう一つの『裏世界ピクニック』(かも知れない)。
『四十九日恋文』(森田季節)
――――
最後の日。一文字で何をどうやって伝えればいいんだろう。悩みに悩んだ。
紙に、文字を書き並べた。「愛」とか「恋」とか「好」とかベタな文字を書き連ねて、どれも違うと思った。かといって、さよならを一文字で表現する漢字も思いつかない。別れを意味する言葉だからって、「別」とか「離」とかじゃ、さよならにはならない。
昼の間には思いつかず、夜になっても思いつかず、知らぬ間に二十一時を過ぎた。あと、三時間で栞の霊魂は遠くに行ってしまう。メッセージも送れなくなる。
――――
SFマガジン2019年2月号p.32
人は死んだ後も四十九日は近くにとどまるから、ショートメッセージなら送ることが出来る。ただし、一日経過するごとに送れる文字数は一文字ずつ短くなる。死別した恋人とのメッセージのやりとりを描いた不思議な作品。どうすれば短くなるメッセージに思いを託すことが出来るのか。そしてやってくる四十九日。最後に送る一文字に何を選べばいいのだろう。ツイッター界隈でいうところの文字数
『本物のインディアン体験TMへようこそ』(レベッカ・ローンホース、佐田千織:翻訳)
――――
セドナスエッツ社で働いているインディアンのなかで、あなた以上にうまくやれるものはいない。あなたの売上数はトップだ。
あなたの妻のテレサはその仕事をよく思っていない。いや、あなたが働いていることは喜んでいる。あなたを捨てる寸前までいった一昨年の惨めな失業期間のあとでは、なおさらそうだ。だが彼女は、その仕事自体は屈辱的だと思っている。
――――
SFマガジン2019年2月号p.199
本物のインディアンに出会い、スピリチュアルな体験と真の叡智を授けられよう!
バーチャルリアリティ技術をつかったアミューズメントを提供する企業のなかでも、セドナスエッツ社は「本物のインディアンが出演するVR体験型ドラマ」の提供を専門とする企業だった。そこで働く「あなた」が知っているインディアン像は、古い映画で得た知識のつぎはぎに過ぎない。だがお客の評判は上々だった。仕事もうまく行っていた。あるとき奇妙な若者と出会うまでは……。
休暇をとってセドナにやってきて、お手軽に魂を浄化したりアセンションしたりしようとする旅行者を相手にした、現代のミンストレル・ショー。実際にネイティブ・アメリカンが置かれている社会的状況とともに、私たちは本当に自分の人生を生きているといえるだろうか、と鋭く問い詰めてくる傑作。
『知られざるボットの世界』(スザンヌ・パーマー、中原尚哉:翻訳)
――――
『なにをやったのだ?』
『拙者がやったとなぜ思う?』ボット9は問い返した。
『多機能ボットという連中は昔からトラブルのもとだった。今回の任務は単純なので、即興プログラムが起動されることはあるまいと思っていたのだが……』
『もてる能力をすべて使って責任をまっとうしたまでである。これが拙者の忠勤』
――――
SFマガジン2019年2月号p.232
太陽系に迫る敵性異星人の巨大戦艦。人類の宇宙艦隊は壊滅状態となった。破壊を免れたのは、倉庫で朽ち果てつつあった老朽艦一隻のみ。通常航行もおぼつかないその一隻が、刺し違える覚悟で巨大戦艦に立ち向かう……。お約束ですか?
けど艦内で保守を担当するボットたちにとってはそんな事情は知ったことではなく、とにかく故障だらけの老朽艦を運行させるだけで手一杯。そんなとき、ごくつまらない任務を与えられた多機能ボット9は、面倒事を消し去るよい解決案を思い付くのだが……。なぜかサムライ言葉で翻訳されている主人公のボット9とその相棒の活躍が楽しい痛快スペースオペラ。
『博物館惑星2・ルーキー 第六話 不見の月』(菅浩江)
――――
「三年前、絵が盗まれ、父が一時期行方不明になった。盗賊は捕えられて絵が戻ったけど、こんな有様だった。父は気にしていなかった。私は、父の気にしていなさがすごく気になって、〈アフロディーテ〉にやってきた。(中略)知りたいのは、#十八は唾棄すべき駄作か、作者が偏愛する名作か、です。でも、無価値だったら、私が襲われることもなかったはず。絶対なにか秘密があるんです。調べてください」
――――
SFマガジン2019年2月号p.324
既知宇宙のあらゆる芸術と美を募集し研究するために作られた小惑星、地球-月の重力均衡点に置かれた博物館惑星〈アフロディーテ〉。そこで起きた暴力事件。鍵を握るのは、ある画家が残した一枚の絵。どうやらその画家が自ら手を入れてその価値を台無しにしたらしいのだが、そこにどんな理由があったのだろう。若き警備担当者である主人公が活躍する『永遠の森』新シリーズ第六話。
2018年12月26日付け早川書房公式ツイートより
――――
SFマガジン百合特集は予約在庫全滅に対応するため、緊急の発売前重版を行いました。しかしその在庫も一瞬で枯渇。よって本日、追加の重版が決定! 3刷目の増刷は1959年の創刊以来、初めての快挙となります。
"百合の時代" 開幕のベルが鳴る――SFマガジン2月号
――――
『キミノスケープ』(宮澤伊織)
――――
メッセージを書いた誰かも、きっとあなたと同じようにするだろう。危険で不便な場所を避けて、安全な場所を見つけながら旅をするはずだ。だとしたら、いつか、どこかできっと巡り会える。あなたはそう考える。
もう圏外としか表示されないスマホで、メッセージの書かれた絵の写真を撮って、あなたは美術館を後にした。その写真は旅の間ずっと、あなたのお守りとなり、心の拠り所となる。あなたは何度も何度も写真を眺め、画面に触れ、話しかけ、胸に抱いて眠る。
――――
SFマガジン2019年2月号p.18
突然、世界から自分以外の人間が消えてしまうという異変に遭遇した「あなた」。無人の街をさまよい歩くうちに、残されていた誰かのメッセージに気づく。誰かが過ごした痕跡も見つかることがある。「あなた」は、まだ見ぬ「誰か」を求めて、変容してゆく異形の街をひたすら歩き続ける。裏世界、というか中間領域で、「誰か」に巡りあえなかったもう一つの『裏世界ピクニック』(かも知れない)。
『四十九日恋文』(森田季節)
――――
最後の日。一文字で何をどうやって伝えればいいんだろう。悩みに悩んだ。
紙に、文字を書き並べた。「愛」とか「恋」とか「好」とかベタな文字を書き連ねて、どれも違うと思った。かといって、さよならを一文字で表現する漢字も思いつかない。別れを意味する言葉だからって、「別」とか「離」とかじゃ、さよならにはならない。
昼の間には思いつかず、夜になっても思いつかず、知らぬ間に二十一時を過ぎた。あと、三時間で栞の霊魂は遠くに行ってしまう。メッセージも送れなくなる。
――――
SFマガジン2019年2月号p.32
人は死んだ後も四十九日は近くにとどまるから、ショートメッセージなら送ることが出来る。ただし、一日経過するごとに送れる文字数は一文字ずつ短くなる。死別した恋人とのメッセージのやりとりを描いた不思議な作品。どうすれば短くなるメッセージに思いを託すことが出来るのか。そしてやってくる四十九日。最後に送る一文字に何を選べばいいのだろう。ツイッター界隈でいうところの文字数
『本物のインディアン体験TMへようこそ』(レベッカ・ローンホース、佐田千織:翻訳)
――――
セドナスエッツ社で働いているインディアンのなかで、あなた以上にうまくやれるものはいない。あなたの売上数はトップだ。
あなたの妻のテレサはその仕事をよく思っていない。いや、あなたが働いていることは喜んでいる。あなたを捨てる寸前までいった一昨年の惨めな失業期間のあとでは、なおさらそうだ。だが彼女は、その仕事自体は屈辱的だと思っている。
――――
SFマガジン2019年2月号p.199
本物のインディアンに出会い、スピリチュアルな体験と真の叡智を授けられよう!
バーチャルリアリティ技術をつかったアミューズメントを提供する企業のなかでも、セドナスエッツ社は「本物のインディアンが出演するVR体験型ドラマ」の提供を専門とする企業だった。そこで働く「あなた」が知っているインディアン像は、古い映画で得た知識のつぎはぎに過ぎない。だがお客の評判は上々だった。仕事もうまく行っていた。あるとき奇妙な若者と出会うまでは……。
休暇をとってセドナにやってきて、お手軽に魂を浄化したりアセンションしたりしようとする旅行者を相手にした、現代のミンストレル・ショー。実際にネイティブ・アメリカンが置かれている社会的状況とともに、私たちは本当に自分の人生を生きているといえるだろうか、と鋭く問い詰めてくる傑作。
『知られざるボットの世界』(スザンヌ・パーマー、中原尚哉:翻訳)
――――
『なにをやったのだ?』
『拙者がやったとなぜ思う?』ボット9は問い返した。
『多機能ボットという連中は昔からトラブルのもとだった。今回の任務は単純なので、即興プログラムが起動されることはあるまいと思っていたのだが……』
『もてる能力をすべて使って責任をまっとうしたまでである。これが拙者の忠勤』
――――
SFマガジン2019年2月号p.232
太陽系に迫る敵性異星人の巨大戦艦。人類の宇宙艦隊は壊滅状態となった。破壊を免れたのは、倉庫で朽ち果てつつあった老朽艦一隻のみ。通常航行もおぼつかないその一隻が、刺し違える覚悟で巨大戦艦に立ち向かう……。お約束ですか?
けど艦内で保守を担当するボットたちにとってはそんな事情は知ったことではなく、とにかく故障だらけの老朽艦を運行させるだけで手一杯。そんなとき、ごくつまらない任務を与えられた多機能ボット9は、面倒事を消し去るよい解決案を思い付くのだが……。なぜかサムライ言葉で翻訳されている主人公のボット9とその相棒の活躍が楽しい痛快スペースオペラ。
『博物館惑星2・ルーキー 第六話 不見の月』(菅浩江)
――――
「三年前、絵が盗まれ、父が一時期行方不明になった。盗賊は捕えられて絵が戻ったけど、こんな有様だった。父は気にしていなかった。私は、父の気にしていなさがすごく気になって、〈アフロディーテ〉にやってきた。(中略)知りたいのは、#十八は唾棄すべき駄作か、作者が偏愛する名作か、です。でも、無価値だったら、私が襲われることもなかったはず。絶対なにか秘密があるんです。調べてください」
――――
SFマガジン2019年2月号p.324
既知宇宙のあらゆる芸術と美を募集し研究するために作られた小惑星、地球-月の重力均衡点に置かれた博物館惑星〈アフロディーテ〉。そこで起きた暴力事件。鍵を握るのは、ある画家が残した一枚の絵。どうやらその画家が自ら手を入れてその価値を台無しにしたらしいのだが、そこにどんな理由があったのだろう。若き警備担当者である主人公が活躍する『永遠の森』新シリーズ第六話。
コメント 0