『時間とはなんだろう 最新物理学で探る「時」の正体』(松浦壮) [読書(サイエンス)]
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自然界のより深い領域が姿を現し、それに基づいて運動法則が更新される度に、時間の認識もまた確実に進化・深化してきたのです。
特に20世紀に入ってからの進展は飛躍的で、私たちが素朴に描いていた自然観を大きく塗り替えるような発見がいくつもありました。そして21世紀を迎えた今、最先端の物理学は、人類史上初めて、時間の真の正体を捉えつつあるという静かな興奮の中にいます。このワクワク感を多くの人たちと共有したくて、私もこの本を書きはじめたという訳です。
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新書版p.8
時間とはなんだろう。この素朴な疑問を軸にして、古典物理から相対性理論へ、量子力学から量子場理論へ、さらに量子重力理論へと、物質と運動に対する理解が深まる度に起きてきた時間観の変遷を一般向けに解説してくれるサイエンス本。新書版(講談社)出版は2017年9月、Kindle版配信は2017年9月です。
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この本のお話は、「時間」と刻まれた小さな石を手がかりに、そこに連なる建物を掘り起こす発掘の旅路です。小さな石だと思っていた「時間」は、「時空」「重力」「量子場」と刻まれた建造物を絶妙に繋ぐ要石でした。これらの建物はそれ自体美しく壮麗ですが、どうやらこれらは、さらに深く埋もれた巨大な構造物の一部のようです。「量子重力」と刻まれていると伝えられるその巨大で荘厳な建物は、今まさに地中から姿を現そうとしており、そこには間違いなく、宇宙開闢の物語が壁画として刻まれているはずです。
非常に近い将来、その物語を皆さんにお伝えできる日が間違いなく来ることでしょう。
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新書版p.229
全体は8つの章から構成されています。
「第1章 時を数えるということ」
「第2章 古典的時間観 ――ガリレオとニュートンが生み出したもの」
「第3章 時間の方向を決めるもの ――「時間の矢」の問題」
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私たちが思い込んでいる「時間」という存在は、物体の運動が持つ性質を説明するために導入された仮説だった、というのが事の真相です。
おそらく、人類が周期運動の便利さに気付くのと時を同じくして、この「時間仮説」は人々の間に自然発生したはずです。実際、身の周りにはこの仮説と矛盾するような現象はひとつもありません。そんな訳で、この仮説はごく当然のように「真実」として私たちの世界観の中に組み込まれ、今日では時間ありきで世界を眺めるのが当たり前になってしまっている、という訳です。
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新書版p.31
時間とはなにかを考える第一歩として、「時間」という概念がもともと「物体の運動が持つ性質」を理解するための作業仮説であったことを確認し、古典力学が到達した「絶対時間」の概念を解説します。
「第4章 光が導く新しい時間観の夜明け ―― 特殊相対性理論」
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時間経過と空間の移動は見方の違いに過ぎないことになります。時間経過とは、比喩ではなく、本当に時空内の運動なのです。時間とは本来、時間と空間が一緒になった「時空」という枠組みの中で捉える必要があることがはっきりと分かります。
(中略)
特に、空間方向の移動も時間経過の一部とみなせるというのはニュートンの時代には考えられない価値観です。相対性原理はこうした革命的な時間観に私たちを導くガイドラインの役割を果たしてくれました。
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新書版p.108、112
特殊相対性理論から導き出された「ミンコフスキー時空」の概念を示し、「時間と空間は別々のものではなく、一つの枠組み(時空)を構成している交換可能な要素である」という、現代物理学に基づく時間観を解説します。
「第5章 揺れ動く時空と重力の正体 ―― 一般相対性理論」
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観測者が勝手に決めた「時間方向」が、物体にとっての自然な時間方向(時空の最短ルート)からずれていると、その物体の時間経過は加速運動に見えて、重力が働いていると解釈されます。重力は時間経過の別名なのです。
(中略)
このように、重力は、観測者の基準と慣性系の間の歪み(ずれ)に反応して発生する力です。その意味で、観測者の立場から見た時空の歪みは「重力場」と呼ばれます。
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新書版p.136
加速によって時間経過に生ずる歪み、それを私たちは「重力」と呼んでいる。一般相対性理論によって明らかにされた時空と重力の関係を示し、「重力とは時間経過の別名である」という新しい時間観を解説します。
「第6章 時空を満たす「場」の働き ―― マクスウェルの理論と量子としての光」
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光子は「波でも粒子でもある」というよりは、「波でも粒子でもないけれど、どちらの側面も併せ持つ何か」と言うべきなのでしょう。この二重性をどのように理解したら良いかは次の章で改めてお話ししますが、このような存在を一般に「量子」と呼びます。
光は量子である。これが、20世紀初頭に人類が到達したひとつの理解です。
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新書版p.170
光子は「波でも粒子でもないけれど、どちらの側面も併せ持つ何か」である。初期量子力学の概要を示し、「量子」の概念を導入します。
「第7章 ミクロ世界の力と物質 ―― 全ては量子場でできている」
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このように、時空はその各点各点に動的な内部空間である場を構えていて、その量子的な振動状態が素粒子の正体です。物質を作る量子場と、力を伝える量子場であるゲージ場が調和し、(広い意味で)共振し合いながら運動する。これがミクロ領域における物質世界の姿です。
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新書版p.204
「物質」も「力」も量子場の振動状態であり、これらの共振が「運動」を形作る。量子力学から量子場理論へと理解を広げ、量子重力理論の紹介に向けた準備を整えます。
「第8章 量子重力という名の大統一 ―― 時間とはなんだろう?」
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一般相対性理論は時空の理論です。この理論が小さい領域で姿を変えるということは、今私たちが想像している「時間」は、図8-1の泥団子のようなもので、もっと小さい領域では全く違った姿をしていることを物語っています。この小さい領域を支配している重力理論を「量子重力理論」と呼びます。そして、量子重力理論が描き出す超ミクロ世界での時空の姿こそが、私たちが求めていた「時間とはなんだろう?」という問いへの答えに他なりません。
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新書版p.214
量子場理論と一般相対性理論を統合した「量子重力理論」の完成に向けた歩みを解説し、そこから「時間とはなんだろう」という問いに対する究極の答えが見つかると考えられる根拠を示します。
自然界のより深い領域が姿を現し、それに基づいて運動法則が更新される度に、時間の認識もまた確実に進化・深化してきたのです。
特に20世紀に入ってからの進展は飛躍的で、私たちが素朴に描いていた自然観を大きく塗り替えるような発見がいくつもありました。そして21世紀を迎えた今、最先端の物理学は、人類史上初めて、時間の真の正体を捉えつつあるという静かな興奮の中にいます。このワクワク感を多くの人たちと共有したくて、私もこの本を書きはじめたという訳です。
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新書版p.8
時間とはなんだろう。この素朴な疑問を軸にして、古典物理から相対性理論へ、量子力学から量子場理論へ、さらに量子重力理論へと、物質と運動に対する理解が深まる度に起きてきた時間観の変遷を一般向けに解説してくれるサイエンス本。新書版(講談社)出版は2017年9月、Kindle版配信は2017年9月です。
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この本のお話は、「時間」と刻まれた小さな石を手がかりに、そこに連なる建物を掘り起こす発掘の旅路です。小さな石だと思っていた「時間」は、「時空」「重力」「量子場」と刻まれた建造物を絶妙に繋ぐ要石でした。これらの建物はそれ自体美しく壮麗ですが、どうやらこれらは、さらに深く埋もれた巨大な構造物の一部のようです。「量子重力」と刻まれていると伝えられるその巨大で荘厳な建物は、今まさに地中から姿を現そうとしており、そこには間違いなく、宇宙開闢の物語が壁画として刻まれているはずです。
非常に近い将来、その物語を皆さんにお伝えできる日が間違いなく来ることでしょう。
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新書版p.229
全体は8つの章から構成されています。
「第1章 時を数えるということ」
「第2章 古典的時間観 ――ガリレオとニュートンが生み出したもの」
「第3章 時間の方向を決めるもの ――「時間の矢」の問題」
――――
私たちが思い込んでいる「時間」という存在は、物体の運動が持つ性質を説明するために導入された仮説だった、というのが事の真相です。
おそらく、人類が周期運動の便利さに気付くのと時を同じくして、この「時間仮説」は人々の間に自然発生したはずです。実際、身の周りにはこの仮説と矛盾するような現象はひとつもありません。そんな訳で、この仮説はごく当然のように「真実」として私たちの世界観の中に組み込まれ、今日では時間ありきで世界を眺めるのが当たり前になってしまっている、という訳です。
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新書版p.31
時間とはなにかを考える第一歩として、「時間」という概念がもともと「物体の運動が持つ性質」を理解するための作業仮説であったことを確認し、古典力学が到達した「絶対時間」の概念を解説します。
「第4章 光が導く新しい時間観の夜明け ―― 特殊相対性理論」
――――
時間経過と空間の移動は見方の違いに過ぎないことになります。時間経過とは、比喩ではなく、本当に時空内の運動なのです。時間とは本来、時間と空間が一緒になった「時空」という枠組みの中で捉える必要があることがはっきりと分かります。
(中略)
特に、空間方向の移動も時間経過の一部とみなせるというのはニュートンの時代には考えられない価値観です。相対性原理はこうした革命的な時間観に私たちを導くガイドラインの役割を果たしてくれました。
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新書版p.108、112
特殊相対性理論から導き出された「ミンコフスキー時空」の概念を示し、「時間と空間は別々のものではなく、一つの枠組み(時空)を構成している交換可能な要素である」という、現代物理学に基づく時間観を解説します。
「第5章 揺れ動く時空と重力の正体 ―― 一般相対性理論」
――――
観測者が勝手に決めた「時間方向」が、物体にとっての自然な時間方向(時空の最短ルート)からずれていると、その物体の時間経過は加速運動に見えて、重力が働いていると解釈されます。重力は時間経過の別名なのです。
(中略)
このように、重力は、観測者の基準と慣性系の間の歪み(ずれ)に反応して発生する力です。その意味で、観測者の立場から見た時空の歪みは「重力場」と呼ばれます。
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新書版p.136
加速によって時間経過に生ずる歪み、それを私たちは「重力」と呼んでいる。一般相対性理論によって明らかにされた時空と重力の関係を示し、「重力とは時間経過の別名である」という新しい時間観を解説します。
「第6章 時空を満たす「場」の働き ―― マクスウェルの理論と量子としての光」
――――
光子は「波でも粒子でもある」というよりは、「波でも粒子でもないけれど、どちらの側面も併せ持つ何か」と言うべきなのでしょう。この二重性をどのように理解したら良いかは次の章で改めてお話ししますが、このような存在を一般に「量子」と呼びます。
光は量子である。これが、20世紀初頭に人類が到達したひとつの理解です。
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新書版p.170
光子は「波でも粒子でもないけれど、どちらの側面も併せ持つ何か」である。初期量子力学の概要を示し、「量子」の概念を導入します。
「第7章 ミクロ世界の力と物質 ―― 全ては量子場でできている」
――――
このように、時空はその各点各点に動的な内部空間である場を構えていて、その量子的な振動状態が素粒子の正体です。物質を作る量子場と、力を伝える量子場であるゲージ場が調和し、(広い意味で)共振し合いながら運動する。これがミクロ領域における物質世界の姿です。
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新書版p.204
「物質」も「力」も量子場の振動状態であり、これらの共振が「運動」を形作る。量子力学から量子場理論へと理解を広げ、量子重力理論の紹介に向けた準備を整えます。
「第8章 量子重力という名の大統一 ―― 時間とはなんだろう?」
――――
一般相対性理論は時空の理論です。この理論が小さい領域で姿を変えるということは、今私たちが想像している「時間」は、図8-1の泥団子のようなもので、もっと小さい領域では全く違った姿をしていることを物語っています。この小さい領域を支配している重力理論を「量子重力理論」と呼びます。そして、量子重力理論が描き出す超ミクロ世界での時空の姿こそが、私たちが求めていた「時間とはなんだろう?」という問いへの答えに他なりません。
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新書版p.214
量子場理論と一般相対性理論を統合した「量子重力理論」の完成に向けた歩みを解説し、そこから「時間とはなんだろう」という問いに対する究極の答えが見つかると考えられる根拠を示します。
タグ:その他(サイエンス)
2017-11-01 15:02
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