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『槐(エンジュ)』(月村了衛) [読書(ファンタジー・ミステリ・他)]

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自分を殺そうとしている相手との戦い、すなわち正真正銘の実戦など、今まで想像したこともなかった。中学生の自分が、まさか大人を相手に命懸けで戦うことになろうとは。(中略)まさに、実戦。そして、まさに生きるか死ぬかの正念場。
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Kindle版No.3276、3293

 夏休み恒例のキャンプに出かけた中学生たちが、凶暴な武装グループに襲われる。キャンプ場に隠された大金をめぐる争奪戦に巻き込まれたのだ。阿鼻叫喚の大虐殺のただ中に放り込まれた彼らに、はたして生き延びるすべはあるか。『機龍警察』シリーズを始めとする痛快娯楽小説を次々に発表している著者の新作長篇。単行本(光文社)出版は2015年3月、Kindle版配信は2015年3月です。


『機龍警察〔完全版〕』より、著者インタビュー
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自分にとって、暴力世界を渡り歩くのはIRAの闘士でなければならないという頑ななこだわりがあって、それでライザというキャラクターを登場させました。中東系の女テロリストというのも面白いので一瞬考えたのですが、自分の中のヒギンズ魂が『IRAで行け』と(笑)。
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Kindle版No.4034


 ライザもいいけど「中東系の女テロリスト」が活躍する話も読みたかったなあという読者の夢が、ついに、かなうときがやってきました。

 旧作『土漠の花』はソマリアで武装集団に襲われた自衛隊員たちが生き延びるために戦う話でしたが、今作で戦うはめになるのは、何と部活で山中のキャンプ場にやってきた、ごく平凡な中学生たち。


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自分は一体何をしようとしている? ただの中学生でしかない自分が、人殺しの集団を相手に一体何を?
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Kindle版No.953


 彼らにはそれぞれ小さな特技(バイク、クライミング、薙刀など)が与えられており、読者の期待通り「ここぞ」という場面で活用されるわけですが、それにしたって人殺しを何とも思わないキメキメの凶暴武装集団と戦うにはあまりにも非力。


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 思っていた以上に切れる相手だ。その上に卑劣で姑息で、恥を知らない。
 プロにはプロの矜持がある。だが子供には自己中心的なエゴしかない。そういう部分だけが子供のままの〈半グレ〉は、下手なプロ以上に厄介な相手かもしれない。
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Kindle版No.2600


 中学生だけではすぐに話が終わってしまうので、むろん切り札が与えられています。それも強力なやつが。むしろ切り札が強すぎで、このままだと夜明けを待たずに敵が一掃されかねない勢いなのですが、バランスをとるかのように次々と敵勢力が追加され、三つ巴の大抗争へとエスカレーション。これでようやくギリギリ、生きるか死ぬかの瀬戸際に。


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ここは学校じゃないの。戦場なのよ
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Kindle版No.1612

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絶対に許さない。必ず罪を償わせてやる。
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Kindle版No.1853

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私の命に代えてもここは一歩も通しはせん!
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Kindle版No.2862

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槐、あなたもお母さんのように愛する者のために戦わねばならない。そう、私やお母さんの分までね。
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Kindle版No.2294


 それぞれの動機と事情が重なり、登場人物たちの覚悟が問われます。逃げる、隠れる、ブラフを仕掛ける、命懸けで戦う。誰もが精一杯のなか、次第に近付いてくる夜明けのとき、そして最後の対決。はたして血塗られた一夜を生き延びるのは誰か。


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もうすぐ朝よ。それまでには決着をつけるわ
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Kindle版No.3553


 というわけで、重たい過去を背負って戦ったりするこれまでの作品に比べると、何しろ主人公たちがまだ若いので、割と軽妙な感じです。現実世界に満ちあふれる暴力と惨劇の一端に触れた若者たちが、自らの人生に真っ直ぐに向きあうようになる青春小説という印象が強い。若い世代に希望を託す物語です。


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でもね、あなた達はやっぱり甘い。世界の真実を、あなた達も今夜少し は勉強したはずよ。私はね、今日までそんな世界で生きてきたの。そして明日も、また明後日も、私はこの世界で生きていく。それはあなた達がいるのと同じ世界でもあるのよ
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Kindle版No.4069


タグ:月村了衛
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