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『JULIET & ROMEO (ジュリエットとロミオ)』(マッツ・エック振付、スウェーデン王立バレエ団、木田真理子) [ダンス]

 先週は、スウェーデン王立バレエ団の木田真理子さんが、日本人としてはじめてブノワ賞「最優秀女性ダンサー賞」を受賞した、というニュースが大きな話題となりました。

 というわけで、遅ればせながら、受賞対象となったマッツ・エック版『ジュリエットとロミオ』の市販映像(ブルーレイディスク)を鑑賞しました。ジュリエットを踊るのは、もちろん木田真理子さん。2013年にスウェーデン王立オペラ座で収録された最新映像です。

 マキューシオやティボルトが身体ぴっちりレザー服でびしっとキメたストリートギャングだったりして、どうも『ウエストサイドストーリー』と混ざってるような気もしますが、基本的には原作および伝統的バレエ作品に忠実な構成です。

 ただし、第一幕はともかくとして、第二幕は「ストーリー展開を説明するためのシーン」をばっさりカットして、殺、殺、寝、修羅場、死、死、皆死、という具合に、見せ場だけ踊るスピーディな展開。全二幕ですが、収録時間は108分と短めになっています。

 音楽はプロコフィエフではなく、すべてチャイコフスキー。それも『ロミオとジュリエット』だけでなく、交響曲やピアノ協奏曲など有名どころの名曲がばんばん使われています。もちろんオーケストラ生演奏。マキューシオ達がふざけて舞台上からオースケストラピットにちょっかいを出す演出、なんてのも。

 舞台上にはクランク型をした大きな黒い壁が何枚も並び、それが移動して舞台転換します。他に舞台道具はほとんど使われず、衣装と照明で様々なシーンを演出するシンプルな舞台です。衣装は渋い色彩が素敵。

 面白いのはセグウェイ(電動立ち乗り二輪車)が活躍することで、群舞でダンサーたちがセグウェイに乗って登場したり、ティボルトがセグウェイに乗って邸内をパトロールしたり、乳母が黄金色のヘルメットを被って威厳たっぷりに舞台を横切っていったり。

 振付はさすがマッツ・エック、心に突き刺さるシャープな動きがどんどん出てきます。かっこいい。

 斜め上方に上半身を思いっきり投げ出すダイナミックな動き。肩から両腕を水平に突き出してひじを直角に曲げてぷらぷら。伸び上げた腕の先を手首だけ90度曲げて威嚇鳥のポーズ。みんなで上半身を思いっきり背後にそらして、さらにスカートをめくり上げて頭から被ってみたり。四股踏んじゃったり(マッツ・エック作品のキメワザ)。読書のポーズで両手をぱたぱた開いたり閉じたりついでに首まで振ってみたり。いかにもマッツ・エックらしい動きが爽快で、しかも胸にずんと響きます。

 木田真理子さんのジュリエットは迫力満点。とにかく目の演技が印象的で、内部に溜め込んだ感情エネルギーが激しすぎて自分でも制御できず、いったん暴発すると周囲を破壊しつくすまで止まらないような凄いパワーを感じさせます。印象だけでいうと、マッツ・エック版『ジゼル』に近い。

 第一幕のラスト、有名なバルコニーの場。ジュリエットを探すロミオ。壁の上からジュリエット登場。壁に隠れていて肩から上しか見えません。そして、そのまま、すーっ、と水平移動。え、なに、それヒトの動きじゃないよ、と焦っていると、壁の端まで到達したジュリエットは90度回転して横倒しになり、壁のふちから頭だけ水平に突き出したまま地面に向かってまたすーっと垂直に降りてゆきます。うわ、こわっ。

 床に到着したジュリエットはそのままほふく前進、腹這いのままロミオの足元にざざざざっとにじり寄ります。貞子かっ。それまで硬直したように立ち尽くしていたロミオも我にかえって思わず後ずさり。それを追って蛇のようにずざざと床を這い寄るジュリエット。ああ、ロミオとりつかれたな、死ぬな、と観客を納得させる素晴らしい演出です。

 二幕の修羅場のシーンも大迫力で、無理やり婚約者と結婚させられそうになったジュリエット、ついに爆発。花嫁衣装をまくり上げて右足を水車のようにぐるぐるぐるぐる回して回して威嚇威嚇威嚇。危険を察した母親と婚約者はいち早く脱出しますが、父親は一家の長として逃げてはならぬここで逃げてはならぬ、ものども、であえであえーっ、どどっとキャピュレット家の兵士たちが乱入してきますが、リミット解除したジュリエットにかなうはずもなく一蹴。

 あまりの怒りに空中を飛び回り(跳躍を繰り返しているわけですが、ポルターガイスト事例にしか見えない)、くるくるくるくる旋回し続けるジュリエット、このままでは地球が危ない。父親が放った必殺の銃弾に脳天を撃ち抜かれ、ついに息絶えるジュリエット。

 しかし、怪獣映画のお約束として、ロミオが駆けつけた途端にジュリエット復活、あるいは幽体離脱。そして、本当にあった呪いのダンス。ロミオもちろん死亡、舞台上の奈落穴に上半身つっこんで両足開いて上に伸ばし、犬神家の一族。セグウェイでかけつけたキャピュレット家の人々も、モンタギュー家の人々も、ついでに大公も、みんなしてジュリエットの呪波動にやられて倒れ伏し、次々とスケキヨ状態。

 多少の曲解はありますが、だいたいこんな感じでジュリエット木田真理子の眼力とダンスパワーに震撼する舞台です。乳母役のアナ・ラグーナが要所要所に登場して、その威厳で雰囲気を引き締めるのも印象的。マッツ・エック作品の「感情過多で破滅型で凶暴で、どこまでも切ない女性」の踊り手が、アナ・ラグーナから木田真理子さんに引き継がれるのを目の当たりにするような感慨を覚えました。

[キャスト]

振付: マッツ・エック Mats EK
ジュリエット: 木田真理子 Mariko Kida
ロミオ: Anthony Lomuljo
ジュリエットの父: Arsen Mehrabyan
ジュリエットの母: Marie Lindqvist
大公: Niklas Ek
乳母: アナ・ラグーナ Ana Laguna
マキューシオ: Jerome Marchand
スウェーデン王立バレエ団


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