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『紅茶スパイ 英国人プラントハンター中国をゆく』(サラ・ローズ) [読書(教養)]

 「ロバート・フォーチュンが中国から茶の種や苗木を盗み出したとき、それは保護貿易上の秘密を盗み出した、史上最大の窃盗だった。たったひとつの植物が原産地から新しい大地に移植されただけで、世界は一変してしまったのだ」(単行本p.258、266)

 19世紀中頃、外国人の立ち入りが禁止されていた中国奥地へ単身乗り込み、茶の秘密を盗み出した史上最大の産業スパイがいた。プラントハンター界のインディ・ジョーンズことロバート・フォーチュンの冒険を描いた歴史ノンフィクション。単行本(原書房)出版は、2011年12月です。

 19世紀中頃、アヘン戦争により中国に麻薬を売りつける権利を確保した大英帝国は、さらなる手を打つ。植民地であるインドで茶を栽培し、茶葉の輸出に関する中国の独占体制を崩壊させる。これにより中国は最大の外貨獲得手段を失い、英国からアヘンを買うために富を放出し続ける他はなくなるだろう・・・。

 「中国は、イギリス人が二百年間愛飲してきた飲み物を完全にコントロールしていた。(中略)茶は、イギリス帝国にいまだに抵抗している大国の象徴なのだった」(単行本p.29、30)

 何とも悪辣非道で恥知らずな策略ですが、まあ大英帝国のやることはいつもそうなので、今さら言っても仕方ありません。しかし、問題となるのは、誰がどうやって中国奥地から茶の秘密を盗んでインドまで届けるのか、という点でした。

 「もしインドで茶の栽培を本気で成功させたいとイギリスが思うなら、最高のチャノキの丈夫な苗木と種を、そして何世紀にもわたって茶職人に伝授されてきた中国茶の最高の製法を、最高の茶産地から手に入れなければならない。これらの仕事を成功させるには、プラントハンターにも園芸家にも泥棒にもスパイにもなれるような人物が必要とされた。 白羽の矢が立ったのが、ロバート・フォーチュンという名の男だった」(単行本p.6)

 こうしてプラントハンター、園芸家、植物学者、そして冒険家であるフォーチュンが、東インド会社の命を受け、単身で中国へと向かうことになります。狙いは中国の至宝、「茶」のすべてを手に入れること。

 中国人に変装し、現地で雇ったガイドを連れて奥地へと向かうフォーチュン。襲い来る海賊、ガイドとの確執、真夜中の襲撃。荒唐無稽な冒険小説か、それこそインディ・ジョーンズ映画みたいな旅が続きます。

 だが、第一回遠征で手に入れた茶の種と苗木は、はるばるインドまで運ばれる間に全滅。そのことを知らないフォーチュンは、続いて最大の難関に挑むことになります。

 「武夷山脈への旅は、フォーチュンにとってこれまでで一番無謀な旅になりそうだった。どんなヨーロッパ人も足を踏み入れたことがないほど深く内陸部へ入り、危険な地域を行くのだ。(中略)そのほとんどは地図にまったく載っていない山道を進むことになる」(単行本p.149)

 「今や中国は政情不安で、街道から遠く離れた山道を旅するのはかなり危険だった。中国人がアヘン戦争の敗北で受けた打撃は内陸部にも達していた。(中略)太平天国の乱(1951-1864)は三年間で16の省に広がり、600もの町が破壊され、2000万人もの死者が出た。しかしフォーチュンは危険な地域に向かっているとは知らずに武夷山脈へ続く山道を進み、太平軍が近づいている道を横切っていった」(単行本p.159)

 マジか、と思うような旅を経て、ついに到着した茶の楽園。フォーチュンの眼前に広がるのは、武夷山脈を越えた先、伝説の「大紅袍」を含む武夷岩茶の茶畑。そして、そこから海辺へ抜け、上海、カルカッタ、そしてヒマラヤ山麓東部にあるダージリン地方へと、フォーチュンにより運ばれた茶は世界を一変させることになるのだった。

 というわけで、あまり知られていない「茶」グローバル化の歴史を追った、冒険ノンフィクションです。国際謀略あり、諜報活動あり、戦闘あり、友情と裏切り、反目と和解、そして植物学。普段、何気なく飲んでいる紅茶や緑茶に、こんなドラマチックな歴史があるとは思いませんでした。


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