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『トロイメライ 唄う都は雨のち晴れ』(池上永一) [読書(小説・詩)]

 沖縄の民間伝承や宗教観を題材にとった魅力的なファンタジーと、過剰感あふれるハイテンションSF、2つの作風が合流した琉球王朝ファンタジー大作『テンペスト』の外伝シリーズ。琉球の料理と歌、やりすぎキャラと庶民人情噺が見事に融合した琉球捕物帳、その第2弾です。単行本(角川書店)出版は2011年5月。

 主に王宮が舞台となった『テンペスト』に対して、本シリーズではそのふもとに広がる那覇の街に焦点が当てられ、そこで暮らす庶民の生活や喜怒哀楽を描く人情噺となっています。全六話で構成されており、『テンペスト』の登場人物がゲスト出演するという読者サービス付き。

 物語の主役となるのは琉球文化。特に歌と料理は毎回大切な役割を担って登場します。主人公である新米岡っ引(というか琉球なので筑佐事)が歌と音楽を奏で、料理屋の部分美人三姉妹(主人公よりもずっと出番が多いレギュラー)が腕によりをかけて琉球料理を作る。この歌と料理の使い方が実に巧みで、読者を陶酔させてベタな人情噺に惚れさせるわけです。

 様々な琉球王朝時代の文化をテーマにした話も多く、『職人の意地』では陶芸、『芭蕉布に織られた恋』では織物、『琉球の風水師』では風水が、それぞれ主題となります。琉球文化に対する強い思い入れがひしひしと伝わってきます。

 他に、地方財政再建を扱った『間切倒』、那覇の市場が舞台となる『那覇ヌ市』、定番幽霊噺に琉球王朝料理をからめた『雨後の子守歌』。様々な事件を通じて主人公が成長してゆく姿をえがく六篇の短篇を収録しています。

 琉球の政治的苦境や地方の疲弊など苦い側面も書かれているのですが、何しろここは、天地を轟かせる絶世の美女だの、悪を叩き庶民を救う謎の怪傑黒頭巾だの、それこそ『テンペスト』級のやりすぎキャラが普通に出てくる池上ファンタジー世界。琉球情緒に酔いしれ、人情噺にほろりときて、ベタなコメディにくすっと笑っているうちにいい気分になって、あ、もう一話読みたいな、というところで終わってしまう。うまいなあ。

 話としては独立しているので単独で読んでも問題はありませんが、登場人物の説明など省かれているので、やはり前作『トロイメライ』を先に読んで、気に入ったら続編である本書を手にとる、という順番がよいと思います。なお、『テンペスト』がNHK連続ドラマ化されるそうなので、そちらを観て気に入った方は、ぜひ原作および本シリーズも読んでみて下さい。

  NHK BS時代劇『テンペスト』
  http://www.nhk.or.jp/jidaigeki/tempest/
 

[収録作]

『間切倒』
『職人の意地』
『雨後の子守歌』
『那覇ヌ市』
『琉球の風水師』
『芭蕉布に織られた恋』


タグ:池上永一
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