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『遊星ハグルマ装置』(朱川湊人、笹公人) [読書(小説・詩)]

 念力短歌、直木賞作家によるショートショート、そして諸星大二郎氏によるカバーイラストという奇跡のコラボレーション。昭和の薄暗がりの気配あふるる懐かし不思議ちょっと怖い系の小説と短歌がたっぷり。単行本(日本経済新聞出版社)出版は2011年6月です。

 まずは念力短歌の師匠、笹公人さんが短歌5首をうたいます。それに呼応して、短篇の名手、朱川湊人さんがショートショート作品を1篇。お互いの作品は独立していますが、同じ題材を使ったり単語が共通してたりして、微妙に共鳴。そんな構成が32セットも繰り返される作品集です。

 まず笹公人さんによる念力短歌ですが、まずは「念力短歌ってなに?」という方のために本書からいくつか作品を引用してみましょう。

    山椒魚にリボンをつけて飼育する下田の部屋に警察がくる

    祠、埋めたやろってユウちゃんの赤いまなざしの理由を知らず

    糸でんわも凶器になるとつぶやいて夕陽に消える少年探偵

    ツチノコをジープで轢いた米兵にまだらの痣が浮かぶ夜更けぞ

    「せんせい」を歌う森昌子にされしまま催眠術師が逝ってしまえり

    みんなして異次元ラジオを聴いたよね卒業前夜の海のあかるさ

    ピラミッドパワーに剃刀安置して童貞の夏は過ぎてゆくなり

    釣り針に和同開珎付けたればシーラカンスの釣り上げらるる

    物置の変身ベルトに浮かぶ錆 さらば遊星の青きゆうぐれ

 ああ、あの頃の日々が、脳裏にまざまざとよみがえり、心にしみじみと思い浮かび、ついでにいらんことまで色々と思い出したりして、ああああ、身悶えしたり。そんな独特の叙情性をおびた素敵な短歌、それが念力短歌です。これが総計165首も掲載されているのですから、まずはそれだけを目当てに購入しても無問題。

 とはいえ、やはり多くの読者のお目当ては、朱川湊人さんによるショートショートのつるべ打ちでしょう。その昔、SF作家たちが量産していたような、そんな懐かしい雰囲気の不思議な話が32篇、収録されています。

 ほとんどの作品は独立したものですが、いくつかシリーズ化したものもあって、やはりネタ出しに苦労したのだろうなあと。しかし、たとえ登場人物が共通であっても作品ごとに独自のアイデアを必ず入れるところはさすがです。

 こうして語られるのは、次のような物語。遭難中に見てしまった謎の施設、月夜静かに山間を歩く巨大カイジュウ、あまりに超常現象てんこ盛りで誰にも信じてもらえない証拠写真、亡くなった母は実は退魔師だったとつぶやく父、生存率低しハードすぎる移動教室、恐竜図鑑の今はなきブロントサウルス、きっぷのいいオヤジ声でしゃべるウサギのぬいぐるみ、ラビラビ(矢崎存美さんの『ぶたぶた』シリーズ、読んでますね)。

 そんななか、玉手箱を使った後追い心中という馬鹿馬鹿しいネタとドタバタコメディ、そして意表をつくオチに笑いつつ膝を打つ『玉手箱心中』。虐待された野良猫との一瞬の心の交流をえがいて泣かせる『傷だらけのジン』。場の空気を気にもとめず特撮の話を得々と語り続けるイタい青年をえがいて、己の姿を省みた読者を悶絶させるに違いない『ニセウルトラマン』などが印象に残りました。

 また個人的な好みですが、「新耳袋」系の実話怪談風の作品も好き。例えば、人が電柱に喰われるのを目撃してしまう『捕食電柱』、畳を海に見立てて遊んでいたら大切な宝物がぽちゃんと落ちて沈んでしまう『子供部屋の海』、水死体に夜行虫が入り込んで血管がぼおっと輝く『夜行虫』、夜中にごそごそ音がするので照明をつけたら財布に足が生えて逃げようとしていた『K氏の財布』など。

 これだけの短歌とショートショートをぎゅっと詰め込んで、さらに諸星大二郎さんの(初期の単行本によくあった)懐かしい少年ものイラストが表紙になっているという、信じがたいお買い得単行本。部屋に置いておくだけでそこから昭和の薄暗がりが染み出してくるような存在感。笹公人、朱川湊人、どちらかの愛読者はもとより、『新耳袋』方面の実話怪談好きにもお勧め。


タグ:笹公人
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