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『おとぎのかけら 新釈西洋童話集』(千早茜) [読書(小説・詩)]

 デビュー長篇『魚神』でいきなり泉鏡花文学賞を受賞した著者による、受賞後第一作となる短篇集です。出版は2010年8月。

「西洋童話はあまりにも遠い世界の香りが強いせいか、どこか他人事で、安心して読めてしまうところがあって、それではぬるいと感じた。また、現代に生きる人の感覚や価値観とも多少ずれがあるような気がした。だから、現代の個人レベルで描いてみたいと思った」(「あとがき」より)

 というわけで、誰もがよく知っている西洋童話をもとに、その恐ろしさや残酷さや美しさを現代の小説として表現してみる、という主旨で書かれた短篇が、「小説すばる」に連載された五篇に書き下ろし二篇を加えて、全部で七篇収録されています。

 何しろ「ぬるいと感じた」というのが執筆動機ですから、どの話も容赦ありません。原作の核心にある嫌なものや恐ろしいものを現代日本に投影して、古今東西を問わず普遍的な人間心理の負の側面をストレートに描いてゆきます。

 こうして、『ヘンゼルとグレーテル』は児童虐待と殺人の物語になり、『みにくいアヒルの子』はいじめと裏切りの物語になります。『白雪姫』は嫉妬と三角関係、『シンデレラ』は資産家の恋人探し、『凍りついた眼』は児童売春、『ハーメルンの笛吹き男』は女の復讐、『いばら姫』は不倫、という具合です。

 いずれも原作が描いている心理や社会のあまり見たくない側面が生々しく表現されており、かろうじて明るさを感じる話はわずか二篇、ほとんどは暗く陰惨な救いのないサイコホラーになっています。苦手な方は避けた方が無難かも知れません。

 人物造形やプロットはどれもありふれたものを使っているのですが、全体に漂う独特の幻想味が印象的です。これが作者の持ち味なのかも知れません。個人的には、最後に収録されている書き下ろしの二篇が気に入りました。


タグ:千早茜
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