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『時の娘 ロマンティック時間SF傑作選』(中村融 編) [読書(SF)]

 『SFが読みたい!2010年版』において、ベストSF2009海外篇第八位に選ばれたSFテーマアンソロジー。いわゆる「時を越えたロマンス」を扱った作品を集めています。出版は2009年10月。

 ロマンティック時間SF傑作選というからには、どうせ『たんぽぽ娘』に『ジェニーの肖像』、それに『愛の手紙』あたりが入っていて・・・などと考えた私が甘かった。収録作と同じくらい大甘でした。目次を見ると、何とどれもこれも読んだことのない作品ばかり。「編者あとがき」によると、本邦初訳作品、単行本未収録作品、入手困難作品を集めたそうで、「珍しい作品ばかりがそろっているわけで、編者がいうのもなんだが、相当にお買い得ではないか」とのこと。チャレンジャーだなあ。

 収録作の発表時期がまた凄い。最も新しい作品が1970年で、大半が50年代から60年代。C.L.ムーアの短篇に至っては何と1936年に発表された作品で、本書自体が「時を越えてきた」感があります。

 さて、収録作のうち最も気に入った作品は『インキーに詫びる』(R・M・グリーン・ジュニア)です。少年の頃に起きたある出来事の真相を思い出すために故郷の町へ向かう男。故郷に近づくにつれ現在と過去の区別が曖昧になってゆき、ついには少年、若者、中年、そして老年の自分が同時存在する奇妙な状況に。驚くべき文章技法により時間を自在にあやつった傑作で、この奇跡のような一篇のためだけにでも本書を購入する価値があると思います。

 『台詞指導』(ジャック・フィニイ)は、映画撮影のために古いバスを調達してきた関係者たちが真夜中のドライブに乗り出し、いつしか旧式バスと共に過去に迷い込んでしまうという話です。いかにも『ふりだしに戻る』の作者らしいノスタルジーまみれ、雰囲気抜群の作品ですが、大方の読者の予想を軽く裏切ることで「過去は変えられない。変えられるのは未来だけ」というテーマを感じさせるところなど、さすがに名手。

 過去に戻って人生をやり直すことが出来たら、という願望をテーマにした作品としては、『かえりみれば』(ウィルマー・H・シラス)と『時のいたみ』(バート・K・ファイラー)が収録されていて、どちらもよく書けていると思います。前者は、意識だけが過去に飛んで若い頃の自分の身体に宿るという設定、後者は身体だけが過去に飛んで若い頃の自分の意識がそれに宿るという設定(これは結構珍しいかも)、という具合に正反対なのが面白い。なのに、どちらも「どんなにやり直そうとしても、人生は結局なるようにしかならない」という結果になるのが皮肉なところ。たぶん、それが真実なのでしょう。

 タイムマシンが出てくるならやっぱり波瀾万丈の冒険活劇、という読者のためには『時が新しかったころ』(ロバート・F・ヤング)と『出会いのとき巡りきて』(C・L・ムーア)が収録されています。

 前者は「オーパーツの謎を解くため恐竜時代に飛んだ主人公が、火星人の姉弟を助けるために恐竜型メカで悪漢と戦う」(マジです)という、ヤングとは思えない単純明快な冒険小説。今読むと、恐竜描写の古さとか、いかにもヤングらしいベタベタなオチとか、色々と微笑んでしまいます。古き良き冒険SF 満開という感じで、これはこれでけっこう好き。

 後者は、運命の恋人を求めて時間の中をさまよい続ける男の物語。タイムトラベルしては恋人と再会、すぐ別離、またタイムトラベル、再会、また別離、これを時の終焉までひたすら繰り返すという馬鹿SFですが、何しろ作者がC・L・ムーアなので、これが雰囲気たっぷりの感動作に思えてくる不思議さ。

 他には、時に隔てられた男女が何らかの手段(たいていは手紙ですが、本作ではテレパシー)で通信するという『チャリティのことづて』(ウィリアム・M・リー)、死亡から誕生まで一生の時間を逆回転で巻き戻してゆくという『むかしをいまに』(デーモン・ナイト)、「存在の輪」と呼ばれるタイプのタイムパラドックスを扱った『時の娘』(チャールズ・L・ハーネス)が収録されています。いずれも現在では定番となっている設定で、傑作も数多く書かれているため、今読むとぱっとしない印象を受けてしまうのが残念。

 というわけで、50年代から60年代の黄金期SFをこよなく愛する方、フィニイやヤングやC.L.ムーアの未読作品と聞いただけで血圧が上がる方、そもそも時間テーマとロマンスの組み合わせが大好きな方、などにお勧めのテーマアンソロジーです。

[収録作]

『チャリティのことづて』(ウィリアム・M・リー)
『むかしをいまに』(デーモン・ナイト)
『台詞指導』(ジャック・フィニイ)
『かえりみれば』(ウィルマー・H・シラス)
『時のいたみ』(バート・K・ファイラー)
『時が新しかったころ』(ロバート・F・ヤング)
『時の娘』(チャールズ・L・ハーネス)
『出会いのとき巡りきて』(C・L・ムーア)
『インキーに詫びる』(R・M・グリーン・ジュニア)


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