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『マイヤリング(うたかたの恋) Mayerrling』(ケネス・マクミラン振付、エドワード・ワトソン、マーラ・ガレアッツィ、英国ロイヤルバレエ) [映像(バレエ)]

 いよいよ来週は英国ロイヤルバレエ来日公演『マイヤリング(うたかたの恋)』を観に行く予定なので、予習のために映像を観てみました。先日観た『オンディーヌ』でパレモンを踊っていたエドワード・ワトソン(Edward Watson)がルドルフ皇太子、そしてマーラ・ガレアッツィ(Mara Galeazzi)がその愛人マリーを踊っています。

 オーストリア皇太子と若い愛人の有名な心中事件を扱った小説を原作とするバレエ作品です。ケネス・マクミランの代表作の一つで、個人的には大好きなんですが、一般的には『マノン』や『ロミオとジュリエット』などに比べてあまり人気がないようです。

 まあ無理もありません。孤独で、神経過敏で、暴力的で、臆病で、虚弱で、偏頭痛持ちで、マザコンで、引きこもり、という皇太子が、どんどん精神的に追い詰められてゆき、ついには狂気に陥って愛人を射殺し自殺するという救いようのないストーリー。人間の負の感情をさらけ出すような振付。性暴力も生々しく表現されており、また意地が悪いことに、女性に対する暴力や支配欲をクラシックバレエの振付そのものを使って表現したりします。

 しかし、人間関係の軋轢や、破滅願望、暴力衝動といったものを演技やマイムではなく徹底的にバレエで表現しているのはさすがで、その表現の鋭さ豊かさに驚かされます。なかでも皇太子とマリーのパ・ド・ドゥはいずれも絶品で、特に最後の(殺人と自殺に向かう)ダンスは思わずぞっとするほどの迫力。その難易度にもまた別の意味でぞっとします。

 以前、イレク・ムハメドフとヴィヴィアナ・デュランテが踊った映像を観たことがあるんですが、この名コンビが踊ると舞台全体がその濃厚な狂気にずぶずぶと沈み込み、戦慄のサイコホラーか精神的スプラッタームービーか、といった感じの恐ろしい舞台になっていました。

 それに比べると、本作のエドワード・ワトソンとマーラ・ガレアッツィのペアはあまりどろどろしておらず、状況に追い込まれて破滅してゆく弱い人々の姿を切々と訴えかけてくるような感じがします。サイコホラーではなく悲恋もの。二人のダンスは実にドラマチックで官能的で、観ていて心が揺さぶられます。

 いかにも英国ロイヤルバレエらしい重厚な舞台装置、豪華で美しい衣装、華やかさの裏側で緊張感に満ちた群舞など、みどころも多い舞台映像です。


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