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『アイの物語』(山本弘) [読書(SF)]

 先日読んだ『去年はいい年になるだろう』の中で、(現在の)山本弘09が「あの作品を書いたことを誇りにしている。多くの読者を感動させたし、何よりも自分が感動した」(単行本p.185)と語り、実際に読んだ(過去の)山本弘01が「その巧みな構成に、僕は我ながら舌を巻いた」(単行本 p.178)と感嘆するシーンが出てきます。

 というか、『去年はいい年になるだろう』の第六章はそのまんま『アイの物語』というタイトルになっており、その中でまるまる四ページを費やして(この作品を執筆する以前の)作者による読後感想が書かれているのです。

 『アイの物語』を未読だった私はこのシーンについてゆけず、何だかものすごくうらやましかったので、ついつい購入して読んでみました(罠)。

 人間とロボット、虚構と現実、その関係をめぐる七つの物語を八つのインターミッションでつないだ形式の連作短篇集、あるいは一つの枠物語の中に七つの物語を埋め込んだ、アラビアンナイト方式の長篇というべきでしょうか。単行本出版は2006年5月、私が読んだ文庫版は2009年3月に出版されています。

 最初の五つの物語は、あちこちの雑誌に発表された雑多な短篇を集めてきたものですが、どれも「もしも世界が仮想あるいは虚構なら、その中で生ずる心や想いも偽物なのだろうか」、「ロボットや人工知能が心を持つということは、すなわち人間と同じ思考をするようになるということなのだろうか」といったテーマがからんでいます。

 最初から順番に読み進めるにつれて、あまりSFを読み慣れてない読者でも、思考のウォーミングアップというか、発想のトレーニングというか、続く二つの書き下ろし短篇、および最終章を読む準備が整うという仕掛け。

 後半は、これまでに小出しにしてきたテーマが素晴らしい完成度の物語へと昇華され、その予想を超える展開に驚かされます。

 小説としての出来で言えば、介護ロボットの物語を通じて人間とは何かを探った第六話『詩音が来た日』がおそらく頂点で、SF外の読者にもアピールするであろう傑作です。

 しかし、SF的には第七話『アイの物語』から最終話『インターミッション8』への展開が素晴らしい。人間と異種知性との関係、現実を変えてゆく物語の力、そしてラストへ向けて怒濤のSFマインド炸裂。どうあっても心を揺さぶられますよ。これは。

 というわけで、人工知能テーマSFとしても、「物語の力」を信じる物語としても、SFへの憧れをストレートに表現した作品としても、人類の愚行に対する悲嘆と怒りと絶望とそれをも超えようとする希望を書いた話としても、あ、そういや「非実在青少年」規制問題を先取りした小説としても、読みごたえ充分。SF入門書としても最適だと思います。


タグ:山本弘
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