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『シンデレラ』(パリ・オペラ座、アニエス・ルテステュ、ジョゼ・マルティネス) [映像(バレエ)]

 パリ・オペラ座によるヌレエフ版『シンデレラ』の新しい舞台映像です。収録は2008年4月、パリ・オペラ座ガルニエ宮。

 ヌレエフ版『シンデレラ』といえば、シルヴィ・ギエムが主役を踊った1987年収録の映像が有名ですが、私の知る限りDVD化されていない(ビデオテープのみ)ため、ようやくこの作品を美しい映像で観ることが出来て嬉しい。

 ヌレエフ版『シンデレラ』では、設定がちょっとひねってあります。舞台は1930年代のハリウッド。王子様は映画スター。魔法使いは映画プロデューサー。舞踏会は新作映画のオーディション会場。

 展開はいわゆる“シンデレラストーリー”というやつで、継母や意地悪な義姉たちにいじめられているシンデレラが、敏腕映画プロデューサーのコネで新人女優としてオーディションに合格。しかしその直後に行方をくらましてしまう。ぜひ彼女を共演者にと望んだ映画スターは、彼女が残したガラスの靴を持って探し回って、ついにシンデレラを見つけて契約書にサインさせたのでした。めでたしめでたし。

 説得力のある設定のもと、黄金時代のハリウッドの華やかさ、そしてくだらなさが、スラップスティックコメディとして展開します。ヌレエフが振り付けたほぼ唯一のコメディ作品だそうです。

 なるほど、いかにもヌレエフらしいコメディ。つまり全然笑えないのです。昔のミュージカルっぽいコミカルな動き、映画スタジオでの『キングコング』撮影風景など、笑えそうなシーンが多く、セットの巨大さ(というか大仰さ)なども楽しいのに、観ていて何だか脱力気味になるのは私だけでしょうか。

 振付のわざとらしさ、間の悪さ、くどさ、など笑いのツボを微妙に外しまくっているように感じます。ヌレエフが他にコメディ作品に挑戦しなかったのはパリ・オペラ座にとって幸いだったかも知れません。

 さらに残念なことに、義姉を踊ったレティシア・プジョルとステファニー・ロンベールがいま一つ。というかシンデレラ役のアニエス・ルテステュがあまりにも貫祿があり過ぎて、第一幕の「いびり倒しシーン」が空回りしてしているのがつらいところ。

 ちなみに1987年の映像では、義姉たちを踊ったイザベル・ゲランとモニク・ルディエールという大ベテランが、とっても弾けた演技で笑わせてくれました。シルヴィ・ギエムをその貫祿でもって威圧しまくり、「あんたみたいな小娘がここで踊るなんて十年早いんだよ」と言わんばかりの堂々たる新人いびりに観客拍手喝采というわけ。

 とまあ色々と不満もあるのですが、二幕の後半、アニエス・ルテステュが映画スタジオにさっそうと登場してからは、もう他のことはどうでも良くなります。ジョゼ・マルティネスのソロに度肝を抜かれ、続くルテステュとのパ・ド・ドゥに魂を奪われ、しまった時間の無駄をしたチャプター飛ばしでここから再生すれば良かった、などと邪念をいだきつつ、うっとり見とれてしまいました。

 とにかくマルティネスが超絶技巧を実に品よくスマートに披露して見せれば、ルテステュが美しいバレエでそっと包み込む。観ているだけで幸福になるような素晴らしいバレエ。個人的には、ジョゼ・マルティネスが素晴らしいと思う。

 見終わった後には、とにかくマルティネスとルテステュが踊れば、他のこたどうでも良くなるんだなあ、といういい加減な感想が残りました。これから観る方は、とりあえず第二幕だけ先に観てしまうというのが吉かも知れません。

[キャスト]

シンデレラ:アニエス・ルテステュ
映画スター:ジョゼ・マルティネス
継母:ステファン・ファヴォラン
義姉:レティシア・プジョル、ステファニー・ロンベール
プロデューサー:ウィルフリード・ロモリ
ダンス教師:クリストフ・デュケンヌ


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