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『オタク的翻訳論 -日本漫画の中国語訳に見る翻訳の面白さ 巻七「ダーリンは外国人」』(明木茂夫) [読書(教養)]

 『オタク的中国学入門』で知られる明木茂夫先生の名シリーズ『オタク的翻訳論』の第七巻『ダーリンは外国人』を中国関連書籍専門の東方書店で購入しました。

 このシリーズは、日本の漫画を中国語に訳すときに翻訳者がぶつかったであろう課題と、それを乗り越えるための工夫を、実例にもとづいて詳細に調べることで、文化の差をあらわにしたり、翻訳という作業が持つ一種独特な創造性に光を当てたり、まあ単純にオタク的探究心を満足させたり、という興味深いものであります。

 さて、巻の七で取り上げられているのは、『ダーリンは外国人』(小栗左多里)。英語ネイティブである夫が日本語を学ぶ過程で起こす勘違いや思わず返答に困ってしまう質問など、日本語の謎というか奇妙さを再認識させてくれるところが実に面白いこの作品、さて日本語も英語も知らない読者にどうやってその面白さを伝えればよいのでしょうか。

 本書では、この難題に果敢に取り組んだ翻訳者の工夫を分類整理して読み解いていますが、まさにこれまでのシリーズで解説された様々な手法を駆使したというか、もう総力戦の様相。

・ 漢字ではなく発音記号やアルファベットで表記
・複数の訳語を並べて表記、背景の絵と矛盾しないように訳語を選択
・擬音語など各種オノマトペを、含意が分かるよう他の品詞に変換
・日本語をそのまま表記して註釈を付ける

 詳しくは本書を参照して頂きたいのですが、わずか2ページを翻訳するためにありとあらゆる手を尽くしている、というより、むしろ原文と同じ面白さを持つ“中国語で書かれた新しい作品を創造している”と言っても過言ではない奮闘ぶりです。

 ちなみに最近、素晴らしいタイミングで『ダーリンは外国人 in English』という日英対訳バイリンガル版も出版されたので、本書と併読することで、「漫画をいかにして外国語に翻訳するか」という課題に対する取り組みを多面的に知ることが出来るかと思います。

 絵と文字と言葉が一体となった漫画という表現を、他の言語に移しかえ、異なる文化に属する読者にその面白さを伝える。今まで気にもしなかったその仕事の、こういった細部にやどる大変な苦労を丁寧に読み解いた解説を読めば、誰もが深い感動とともに知的興奮を覚えずにはいられないでしょう。

 と思ったら、そういったことを全く理解しない、評価しない人というのがこの世には存在するらしい。本書の「おわりに」において、著者の研究発表の場で質問に立った老人のエピソードが書かれているのですが、これはけっこう衝撃的でした。

 さて、巻一から始まって巻七まで、虹の七色がついに揃ったところで本シリーズは完結、の予定だったそうですが、嬉しいことに、というか予想通りというべきか、「せっかくだから、七冊を超えてまだまだ続けるつもりである」(はじめに)とのこと。

 「せっかくだから」というのがいいですね。これからも楽しみにしたいと思います。次に取り上げる作品としては、『日本人の知らない日本語』(蛇蔵&海野凪子)など、いかがでしょうか。


タグ:台湾
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