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『コロヨシ!! 』(三崎亜記) [読書(小説・詩)]

 三崎亜記さんの『失われた町』、『刻まれない明日』と同じ背景世界を舞台にした最新長篇です。単行本出版は2010年2月。

 今回の主人公は、掃除部に所属する高校二年生の男子。達人と言われた祖父のもとで幼いころから掃除を学んできた彼は、両親から厳禁されているにも関わらず、掃除部でこっそり練習を続けています。

 かつて大陸からこの国に伝えられ、秘伝を受けた一部の武道家のみが継承してきた暗殺用の武術といわれる「掃除」。現在ではスポーツとして受け入れられているものの、その負の歴史ゆえに常に国家から統制を受け、今も関係者には厳しい監視の目が注がれる忌避されたスポーツ、掃除。タイトルは、この掃除の開始を告げる掛け声、「頃良し!」からきています。

 全国大会を目指し、練習に余念がない主人公。忍び寄る公安の影。立ちはだかる正体不明のライバル。地区大会で実力差を思い知らされ挫折した主人公の前に姿を現した謎の指導者(自称)。理解できない奇妙な特訓。恋人との宿命の対決。果たして彼は自分にとっての真の掃除を見つけることが出来るのか。今、掃除の歴史が大きく動こうとしていた・・・。

「お前の知っている掃除だけが掃除じゃない。俺に言えることはそれだけだ」

「俺は、何のために掃除をやっているんだ?」

「出る資格はありませんな。全国大会など」

「確かに私は、命じられるままに掃除をしてきました。そうせざるを得なかった。だから、この国の掃除をすることも、身体になじませることも、ずっと心の中で嫌悪してきたんです」

「何でずっと黙っていたんだよ? 父さん」

「先輩と一緒なら、すべてを超えて先に進めるかもしれない」

「これから、掃除は激動の時代を迎えます。あなたがた二人は必ず、その渦中に巻き込まれるはずです。それでも続ける覚悟はありますか」

「どこまで、行くのだろう。どこまで、行けるのだろう」

「頃良しっ!」

 こうしてわずかなセリフを抜き書きするだけで、説明しなくてもストーリーは分かりますね。というか本当に分かっちゃうなあ。黄金パターンというのは凄い。

 最初は三崎亜記さんが熱血スポ根小説を書いたというので驚きましたが、読んでみると、意外にも熱血という印象は薄く、むしろ『失われた町』、『刻まれない明日』と同じテイストを強く感じます。

 人と人との想いがつながってゆく展開。定められた運命の中で懸命に生きる人々。不条理で不気味な権力構造や国家統制の影。「西域」「居留地」「異邦郭」など独特の用語により構築された、現実と微妙に重なりつつも異質な「日本」という舞台。過剰なほどの叙情性と、その裏に見え隠れする巧みに仕込まれた毒。

 「廃墟促進剤」とか「イッカクリュウチョウ」とか、過去の作品と共通するアイテムもあちこちに散りばめられており、これが既視感を引き起こす仕掛けとして機能しています。

 特に似ているのが、短篇『隔ての鐘』(『刻まれない明日』の第二章)で、設定も展開も登場人物もそっくり。むしろ本作は『隔ての鐘』の長編化と言って良いかも知れません。双龍や老婆など登場人物の一部は似ているどころかおそらく同一人物と思われ、何だか顔なじみに会ったような懐かしさを覚えます。

 というわけで、ガチな熱血スポ根を期待すると肩すかしを食らうかも知れませんが、『失われた町』、『刻まれない明日』の路線を気に入った方なら、大いに楽しめるであろう一冊です。三崎亜記さんの作品を初めて読むという方は、出来れば短篇『隔ての鐘』だけでも事前に読んでおくことをお勧めします。


タグ:三崎亜記
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