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『手をふる 手をふる』(斉藤倫) [読書(小説・詩)]

 斉藤倫さんの詩集です。単行本出版は2004年10月。

 現時点における最新作『さよなら、柩』に感動したので、その前に出版された詩集も読んでみました。『さよなら、柩』に比べると、社会派というか、詩の言葉で世相に対する問題提起をしているように感じるシリアスな作品が多いのが特徴です。どんな感じか、いくつかの作品から一部を引用してみましょう。


『チェロキー』より
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「おのれ目にモノ見せてくれるわー」
「歯にキヌ着せてくれるわー」
「手に職つけてくれるわー」
って、いたれりつくせりじゃないですか
不景気だなんだっていったってやっぱり豊かな時代なのですね
と捨て犬チェロキーは公園の水飲み場の前にうずくまったままいった
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 いまひとつ問題意識がはっきりしないところもありますが、おそらくは雇用と労働を扱った詩。


『ロキデナシ』より
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「生き物
 生き物」
といって生き物売りが来る
買ってみるまでは
何の生き物かわからない
買った後では
おいそれと捨てたり
死なせたりするわけにはいかない
生き物だから

というニュービジネスを
考えたよ
典型的なショービジネスだな
と友人はいった
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 いまひとつ焦点がぼけているような気もしますが、おそらくは経済について真剣に考察した詩。


『壁画』より
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ラスコーの壁画を描いた女子高生と
アルタミラの壁画を描いた女子高生が偶然
同じクラスになった
美術の時間は勝敗つかず
ついには椅子取りゲーム
お互いに高松塚古墳の壁画も描いたと
いいはったのだ
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 いまひとつ受け狙いの下心も見えますが、おそらくは芸術について問いかけた詩。


『わが町』より
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神も仏も
しっかり分別して出しましょう
みなさんの町です
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 いまひとつ何が言いたいのかよく伝わってきませんが、おそらくは宗教についての深い思索にもとづく詩。


『都会育ち』より
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ズッキーニで
撲り殺されるのと
アーティーチョークで
窒息するの
どっちがいい?
なんてきいてくれてありがとう
どっちでもいいよ
気をつかって
おしゃれ野菜にしてくれたんだね
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 いまひとつ感情移入するには難がありますが、おそらくは農業と食糧自給率について問題提起しようとした詩。


『サンラータン』より
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サンラータンが嫌いと
いっただけなのに
ここまで追い詰められた
他愛もない強がりで
しかも本当は
ランブータンといいたかったのだ
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 いまひとつ迫力不足の観は否めませんが、おそらくは社会的疎外についての真摯な想いが結実した詩。


『ストロベリー・フィールズ・フォーエバー』より
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「苺ってよーく見ると
 トンボの目玉みたいな
 小さな細胞みたいのに
 一コ一コに毛が生えてんだぜ」
「やめて」
「もう苺食えないだろ」
「ひどいひどい
 宇宙人だったら絶対そんなことしない」
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 いまひとつ唐突すぎて訳が分からない点もありますが、おそらくは宇宙人についての詩。


『ペンギン』より
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ペンギンは
すべての人の
心のなかにたっている
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 いまひとつ何かいいこと言おうとして失敗したような気配が漂いますが、おそらくはペンギンについての詩。


 というわけで、結論として、斉藤倫さんの詩は素晴らしい、でもしばしば著者名を斎藤倫と書かれてしまうし、そしたら検索に漏れてしまうし、正しく書いたら書いたで同姓同名の漫画家さんと間違えられるし、しかもあちらの方がはるかにメジャーだし、本名なのに真似したとか言われて落ち込んでたりして、いやそれは勝手な想像ですが、とにかくいろいろと不遇かも知れないけど頑張ってこれからも良い詩を書いてほしい、というようなことを私は言いたかったのです。


タグ:斉藤倫
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