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『サはサイエンスのサ』(鹿野司) [読書(サイエンス)]

 SFマガジンに連載された(むしろアスキーの「ログイン」で読んだという印象が強い)鹿野司さんのサイエンスエッセイが単行本にまとまりました。とり・みきの素敵なカバーが目印。出版は2010年1月です。

 クローニングやiPS細胞などのバイオテクノロジー、科学と宗教の関係、私たちの文明や認知、集積回路、地球温暖化、などなど話題は多岐にわたっており、興味があるトピックのみ拾い読むだけでも楽しめます。個人的には「小惑星探査衛星はやぶさ」(というか、はやぶさチームの奮闘努力)に関する解説が特に興味深く読めました。

 ずいぶん前に書かれた原稿もありますが、全て大幅な加筆修正を加えて最新の内容にアップデートしてありますのでご安心。それに、各エッセイの主眼は「最新の科学的発見やテクノロジーについて解説する」というところにはなく、むしろその発見なり開発なりによって引き起こされる「発想や世界認識の大きな転換」というところ、つまりSF魂というやつですね、たぶん。ですから、話題の新しさはさほど重要ではありません。

「科学的なものの見方の面白さは、何事も簡単に分かり切っていると思ってしまう人間に、実はそうじゃなかったのだと気がつかせてくれるところにあるんだよね」(単行本p.117)

「自然とは、人間にとって傲慢さを戒め、新鮮な驚きを体験させてくれる、最高の知的エンターテインメントなんだよね。だから人は、自らの楽しみのために、生態系を守らなければならない」(単行本p.265)

といったあたりに本書の主題がよく表れています。すなわち、私たちの思い込みを裏切って驚かせてくれるからこそ自然は素晴らしく、それを教えてくれるからこそ科学は楽しい。

 個々の内容や主張については個人的に賛同しかねるものもありますが、全体を貫く上記の発想には、私も大いに共感を覚えます。好感が持てる一冊です。

 余談になりますが、オカルトやらスピリチュアルやらが往々にしてひどく退屈なのは、つまり私たちの思い込みや願望をそのまま言葉を変えて(大抵は言葉も変えないで)繰り返しているに過ぎないからで、“事実”によるびっくりするようなちゃぶ台返しが常に繰り返されているサイエンスの方がずっとエキサイティングで面白いんだ、ということは是非とも多くの人に知ってほしいものだと思います。


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