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『記憶はウソをつく』(榎本博明) [読書(サイエンス)]

 人間の記憶というものがいかに可塑的で、どれほど容易に改変あるいは偽造されるものであるかについて解説してくれる本です。出版は2009年10月。

 偽造記憶や目撃証言に関するロフタスの一連の研究(有名なショッピングモール実験など)を紹介しつつ、記憶の植えつけによって「幼少期における虐待の記憶を思い出して両親を訴える」といったケースが続発し社会問題化した米国の事例などを詳しく解説してくれます。

 もちろん人間の記憶が当てにならないという事実から引き起こされる法的なトラブルは米国だけの問題ではありません。むしろ、容疑者の自白を重んじる日本の司法制度における冤罪事件の方が、より広範かつ深刻な問題でしょう。

 本書の第二章以降の大部分はこの「虚偽の自白による作られた冤罪」という問題について集中的に取り扱っています。

 私たちは「犯人でもないのに自白するはずがない」と思いがちですが、人間の記憶がどんなに簡単に偽造、捏造されるものかを知れば、取り調べの過程で無実の容疑者に「自分が犯行を行った」という生き生きとした記憶が植えつけられても少しも不思議はないことが理解できます。

 また、日本の警察の取り調べというのがまた、偽造記憶を植えつけて犯人を「作り上げる」ことを目的にしているのかと思えるほどに、これが起こりやすい仕掛けになっていることも分かり、読んでいて不安にかられます。これでは誰がいつ犯人にされてもおかしくありません。

 虚偽自白による冤罪というと、何となく「心理的拷問に近い圧力を加えて無理に自白を引き出す」というイメージがありますが、むしろ「誘導と暗示によって犯行記憶を植えつけ、進んで自白するよう仕向ける」というテクニックの方が問題であり、これを何らかの形で規制することが必要ではないでしょうか。

 というわけで、偽造記憶や改変記憶の不思議について解説する本は他にも良書が多数あるのですが、本書は日本における冤罪問題に焦点を当てて非常に分かりやすく書かれているという点でユニーク。むしろ裁判員制度や死刑制度について考える際の参考に読んでほしい一冊です。


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