SSブログ

『超弦領域 年刊日本SF傑作選』(大森望、日下三蔵) [読書(SF)]

 恒例となった年刊日本SF傑作選、その2008年版です。収録作は(『アキバ忍法帖』(倉田英之)はともかくとして)どれも良い出来で、読みごたえたっぷり。

 何よりもまず、『From the Nothing, With Love.』(伊藤計劃)が素晴らしい。意識のハードプロブレム、哲学的ゾンビ問題、受動意識仮説、といった流行りの話題の数々が“ちょっと刺激的な思考実験”の域をこえ切実な自分の問題となる瞬間の衝撃を書いたSFは数あれど、伊藤計劃さんの作品は別格だと思います。

 特に本作は、このテーマを表現するために選んだ“素材”とその扱い方がべらぼうに巧く、読者の心を打ちます。そしてこの作品(としての文字列)が「読者の心を打つ」ということそれ自体が作品のテーマ的に必須という、このハードルの高さに感動します。

 そして本アンソロジーの最後の最後に収録されたこの作品には、他の作品には全て付いている「著者のことば」が付いてないという事実に、涙する他はありません。涙。

 他に、個人的に最も気に入ったのは『分数アパート』(岸本佐知子)。何でやと問われたら困るのですが、とにかく岸本さんの随筆は私の心を直撃してくるんですよ。まあSFではありませんけど。「必死ちゃん」ですけど。

 SFではないと言えば、『土の枕』(津原泰水)が凄い。ほとんどショートショートの枚数で一人の男の数奇な人生を見事に描き、その完成度は驚嘆すべきものがあります。純粋に小説としてのレベルで言えば、このアンソロジー全体でおそらく本作が一番ではないでしょうか。

 唸らされたのが『時空争奪』(小林泰三)。英米のSF作家ならこれだけで長編(それも翻訳版で上下巻二冊組)、その続編、さらにシリーズ第三弾まで書いてしまいそうな極上の奇想を惜しげもなく短編にぶち込んで、さらによせばいいのにクねたまで振りかけて全て台無し、ゲテモノSFにしてしまう。この潔さ、なのか理解不能なくらいひねくれた照れなのか、高純度のいちびりなのか、何だかよく分からないこの作者が実は私は少し怖い。

 後は、『ONE PIECES』(樺山三英)、『胡蝶蘭』(藤野可織)、あたりがお気に入り。そして他の作品も(『アキバ忍法帖』(倉田英之)はともかくとして)2008 年の日本SFを代表するにふさわしい作品が選ばれており、SF好きならとにかく読んでおいた方がいいと思います。来年も楽しみです。


[収録作]

『ノックス・マシン』(法月綸太郎)
『エイミーの敗北』(林巧)
『ONE PIECES』(樺山三英)
『時空争奪』(小林泰三)
『土の枕』(津原泰水)
『胡蝶蘭』(藤野可織)
『分数アパート』(岸本佐知子)
『眠り課』(石川美南)
『幻の絵の先生』(最相葉月)
『全てはマグロのためだった』(Boichi)
『アキバ忍法帖』(倉田英之)
『笑う闇』(堀晃)
『青い星まで飛んでいけ』(小川一水)
『ムーンシャイン』(円城搭)
『From the Nothing, With Love.』(伊藤計劃)


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0