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『アクロバット前夜』『 アクロバット前夜90°』(福永信) [読書(小説・詩)]

 福永信さんのデビュー作、第一短編集です。厳密に言うと単行本デビュー作は『アクロバット前夜』で2001年6月発行。もう一方の『アクロバット前夜90°』は2009年6月発行で、こちらは現時点における最新刊です。

 『90°』の方に「作品内容上の変更は一切加えてありません」と注意書きがある通り、両者は同じ本です。ただし見かけは全然違いますが、それについては後述します。

 で、これは凄い小説です。とにかく説明不能な面白さ。読後うろたえ途方にくれるような変な魅力にあふれていまして、人によって好みは分かれるかも知れませんが、私はもう恋してしまいましたね、この文体に。

 いずれも変な状況に置かれた少年少女たちの奇妙な生態を書いた作品ですが、とにかく状況設定の不可解さ、子どもたちのわけ分からなさ(ある意味リアルですが)、展開の不条理さ、そしてそれら全てに対する圧倒的なまでの説明の欠如、といった特徴が際立っていて、普通の小説を読んでいるつもりでページをめくっていると、たちまちにして迷子になってしまいそうです。

 だが素晴らしきはその文体。部分的には非常に明晰で、部分的にはすごく読みやすく分かりやすく、部分的にはとてつもない奇抜なユーモアに満ちていて、部分的には読んでいて心地よい、全体的には何が何だかよく分からない、その文章。ハマりました。恋しました。しかし、いったい何なんでしょうねこれ。

 収録作のうち個人的にシビれたのは、まず『アクロバット前夜』です。これは、男の子がいて、女の子がいて、色々あって、何だかよく分からない、そういう話。素敵です。他に『三か所の二人』や『Boys & girl』も好み。これは、女の子がいて、男の子がいて、色々あって、何だかよく分からない、そういう話。感激します。胸が高まり、もう涙が出そうです。よく分かりませんが。

 二冊の単行本は内容的に同一ですが、前作の方は特殊な組み方をしています。横書きページ右綴じ。最初のページの一行目、普通なら行端で折り返して二行目に続くところを、折り返さずそのまま二ページ目の一行目に続きます。その二ページ目の一行目も同様に折り返さず三ページ目に続き・・・。最終ページの一行目のラストでようやく行端折り返して、そう一ページ目の二行目の文頭に続きます。以下繰り返し。

 読みにくいというか、実質的に「読むな!」と言ってるような組み方で、なんでこんな変な本にしたのかよく分かりません。というか、処女単行本をこういう形で出版することに疑問とかためらいとかなかったのでしょうか。

 これに対して『90°』の方は、縦書きページ左綴じの、ごく普通の本です。おそらくタイトルは「横書きを縦書きにした(90度回転させた)」という意味なんでしょうが、こちらの方がはるかに読みやすくなっています。というか何で最初からそうしなかったのかと。

 というわけで、今から読むのであれば『90°』の方を強くお勧めします。読んで怒る人もいるかも知れない、というかその方が真っ当な読者かも知れない、という懸念があるので、まずはパラパラと立ち読みして自分に合うかどうか確かめてから購入した方がいいかも知れません。

[収録作]

『読み終えて』
『アクロバット前夜』
『Boys & girl』
『五郎の五年間』
『屋根裏部屋で無理矢理』
『三か所の二人』


タグ:福永信
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