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『真実真正日記』(町田康) [読書(小説・詩)]

 シリーズ“町田康を読む!”第23回。

 町田康の小説と随筆を出版順に読んでゆくシリーズ。今回は、日記形式で書かれた小説です。単行本出版は2006年10月。

 タイトルを見ると随筆みたいですが、小説です。長編小説のプロットが暴走して収束しないで困るとか、バンド仲間のトラブルだとか、「作家が書いた日記」という体裁でもっともらしい日常生活が書かれてゆきますが、その背後では、世情がどんどん荒れてゆき、社会が崩壊に向かってゆく様がつづられます。

 書いてあることは虚構ですが、ただ目立ちたいだけの思想も目的もない評論家が言論を駄目にしてゆく様、現実から遊離した空虚な言葉をコピーするだけのマスコミ、人と人とのコミュニケーションが劣化して社会が機能しなくなる様子、少女性の商品化、自己責任による国への人権売却など、私たちの現実をほんの少し誇張することで、その真実真正の姿をあらわにする、そういう狙いで書かれた作品なんだろうと思います。

 なお、作中にちらりと笙野頼子の名前が出てくるあたりを見ると、ちょっと意識しているような気もします。ここに書かれている日本は、町田版「だいにっほん」なのかも。

 書き手が「普段の自分だったら(中略)こんな自己憐憫的でナルシスチックで鼻持ちならない文章は書かない」と言うように、いつものような語りは封印され、うつうつとした暗い文章で書かれています。本の装丁が真っ黒で、カバーの人形写真がまた狂気入ってるし。気分が浮き立つ本ではありません。

 いつもの軽快な語りを期待すると面食らうかも知れない異色作ですが、作者が見た世情や社会情勢が巧みに表現されており、読みごたえがあります。『告白』から『宿屋めぐり』へと至る道筋を追うためにも、きちんと読んでおきたい作品です。


タグ:町田康
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