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『都市に空いた穴』(リチャード・ボウズ) [読書(SF)]

 今月のSFマガジンはてっきり「伊藤計劃 追悼特集」になると思い込んでいたのですが、それは7月号になるとのこと。SFマガジン2009年6月号は、「スプロール・フィクション特集V」として、まだあまり馴染みのない海外作家を紹介してくれています。


『名高きものども』(クリストファー・ロウ)

 かつて地上を闊歩していた巨人族が現代に蘇り、人類を支配すべく行動を開始する。

 おそらく様々な寓意や象徴が込められているのでしょうが、聖書も読んだことがない私には、どうもピンときません。「刑務所から出てきたばかりのギャングと、それを出迎えた昔の子分が組んで、またひと暴れ」みたいな話としか思えませんでした。まあ単純にそう読んでも面白いのですが。


『蝶の国の女王』(ホリー・フィリップス)

 事件に巻き込まれて人質となり、いつ殺されるか分からない状況にある恋人を待ちながら、ファンタジー小説を書こうとする女性作家の話。

 どんな物語だって紡ぎだせるファンタジー作家でありながら、冷酷な現実に対して何もできない無力さを嘆くヒロイン。不安と焦燥をまぎらわせるために創り出したと思しき空想の生き物が、ごく当たり前のように登場してくるところがキモ。

 手堅い筆致で好感は持てます。でも、リアルな情景に幻想が入り交じってくるという手法にも特に新鮮さは感じられず、何だか昔の少女マンガみたいな印象です。


『都市に空いた穴』(リチャード・ボウズ)

 911テロの直後。かつての恋人と再会した主人公は、彼女から幽霊を目撃したことを告げられる。グラウンド・ゼロにあいた「穴」から、死者たちが次々と現世に戻ってきているというのだ。

 911を背景としたゴーストストーリー。ホラーと思わせておいて、青春ノスタルジー方向に持ってゆく手口が巧みです。小川隆さんの作家紹介によると「独特のノスタルジーと喪失感、挫折感」を特徴とする作風とのことですが、本当にその通りの作品。青春と老境が鮮やかに対比されるラストでけっこうほろりとくるのは、こちらが歳くったせいかも。


『ローズ・エッグ』(ジェイ・レイク)

 「エッグ」と呼ばれる新型のグラフィティ・ツールをめぐる、若きストリートギャングたちの夢と野望と挫折を描く作品。

 グラフィティ・アートにナノテクノロジーを応用する、という思いつきそうで思いつかなかった意外な発想が光るのですが、登場人物やストーリー展開がいかにも凡庸というか陳腐すぎて、あまり感動しませんでした。


 というわけで、個人的には『都市に空いた穴』のリチャード・ボウズが好みなのですが、ではボウズの他の作品を読みたいかといえば、それは微妙なところ。ケリー・リンクに出会ったときのような衝撃と感動は、なかなか見つからないようです。


タグ:SFマガジン
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