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『廃墟建築士』(三崎亜記) [読書(小説・詩)]

 『鼓笛隊の襲来』に続く三崎亜記さんの第三短編集です。収録されているのは、2007年に「オール讀物」に掲載された1篇と、2008年に「小説すばる」に掲載された3篇を合わせた全4篇。単行本出版は2009年1月です。

 マンション、廃墟、図書館、蔵という具合に、収録作は全て建築物に関する話。「日常生活でふと感じる違和感」を元に荒唐無稽ながら変にリアルな設定を作り、それを使って今度は「日常」を奇妙なねじれたものに変え、そこから、私たちが普段は考えないようにしている「日常」の脆さや酷薄さを浮かび上がらせるという、いつもの手法で書かれています。

 全ての建築物から「7階」を撤去しようとする行政に対する住民の反対運動の蹉跌を描く『七階闘争』。三里塚闘争を連想させると共に、デビュー長編『となり町戦争』も思い出させてくれる印象的な作品です。

 廃墟を“新築”する建築家のこだわりと美学、プライド、そして挫折を描く『廃墟建築士』。真夜中になると生命を得て飛び回る“野生”の書籍たちを調教する仕事を扱った『図書館』。どちらも「職人小説」として楽しめます。

 人類誕生前から建っていたという意識ある「蔵」と、それを守るために人生を捧げた蔵守が、それぞれ自分の想いを後継者に託して逝く姿を抒情たっぷりに描く『蔵』。

 前作に収録された作品はいずれも短すぎて、「奇妙な設定を説明した途端、もうオチに向けて収束を始める」という慌ただしい構成で、物足りなさを感じたものでした。

 それに対して今作はいずれも中編に近い長さで、設定が明かされた後も充分に展開する余裕があり、読みごたえがあります。この作者の作品は、このくらいのボリュームがちょうどいいのではないでしょうか。

 なお、どういうわけか、旧作とのリンクがやたらと目につきます。最もあからさまなのは『図書館』で、これは旧作『動物園』のストレートな続編。主人公も同じです。個人的に『動物園』は気に入っていたので、また日野原さんに会えてとても嬉しい。

 他にも『廃墟建築士』はさりげなく旧作『二階扉をつけてください』にリンクされており、『七階闘争』は旧作『覆面社員』にリンクされています。ちなみにその『覆面社員』は、そのまた旧作『バスジャック』にリンクされていました。

 こんな風に旧作へのリンクを目立たないように埋め込むのは、作者のお遊びなのか、読者サービスなのか、それとも何かの布石なのか、それら辺は分かりませんが、リンクを見つけると何となく気分がいいのは確かです。

 全体的に見て、前作までに個人的に感じていた不満はほぼ解消されており、荒唐無稽な設定の魅力、変にロジカルで生真面目な展開から生ずる何とも言えないおかしさ、感傷的なシーン、「人と人との絆」や「託された想い」といったナイーブな主題など、三崎亜記さんの特徴がいい具合にバランスしており、読んでいて快適です。

 個人的に最も気に入ったのは『蔵』。これは星新一さんの叙情的な作品(傑作が多い)を思わせる作風で、読後にしみじみとした感慨を残すいい話です。風刺や寓意がはっきりした作品も悪くはないのですが、むしろこういう話をもっと書いてほしい。


[収録作]

『七階闘争』
『廃墟建築士』
『図書館』
『蔵守』


タグ:三崎亜記
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