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『逆境戦隊バツ「×」(1)』(坂本康宏) [読書(SF)]

 デビュー作は、いい歳した大人が「チェンジ! ダブルオー」と叫ぶ合体ロボットもの。現時点での最新作は、いい歳した大人が「変身!! 稲妻6(イナズマシックス)」と叫んで変身する超人ヒーローもの。

 とりあえず坂本康宏さんの作品を2つ読んでみたわけですが、こういう話をパロディでもギャグでも何でもなく大真面目に熱血SFとして書くという作風が、どうにもこうにも心のツボにつき刺さってしまい、やむにやまれず他の作品も読んでみることにしました。

 で、本作です。タイトルからして、もしや、いい歳した大人が何やらレンジャーと名乗りを上げて戦う話ではないかという疑惑が脳裏をかすめたのですが、それはいくら何でも恥ずかしくて電車の中で読めません。

 しかしながら、佐藤哲也氏はカニレンジャーを、笙野頼子氏はナノレンジャーを、それぞれ純文学作品として書いています。戦隊ヒーローは、現代純文学における重要アイテムなのです(たぶん)。であるからには、戦隊ヒーローものを読むのは恥ずかしい、などという俗物的先入観にとらわれている方が、よっぽど恥ずかしい姿勢ではないでしょうか。

 というわけで、とにかく読んでみました。

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 コミケとワンフェスだけが生きがいという落ちこぼれ社員、騎馬武秀はキモいオタクである。子供の頃からずっと陰湿なイジメを受け、会社でも叱責される毎日。そんな彼の悩みは、薄くなった髪をカツラで隠していること(そこかい)。

 だが、謎のクラゲに刺されたときから彼の人生は一変する。激しい劣等感が頂点に達したとき、赤い閃光に包まれた騎馬武秀は、真っ赤なプロテクタースーツに全身を包んだヒーローへと変身したのだ。そのことを知った社長は、彼を社内戦隊「クルミレンジャー」の一員としてスカウトする。

 いい歳してヒーローごっこをする気にならない騎馬武秀。しかし、本物の怪人が現れ大量殺人を行なうに至って事態はマジであることが判明。しかも怪人は武秀が密かに憧れていた社長令嬢を人質にとって攻撃を仕掛けてきた!

 彼女の前で自分の秘密を明かすわけにはいかない。何としても、何としても、ハゲであることを隠さなければ(そっちかい)。腕に刻まれたクロス(×)に触れたとき、真っ赤な光が炸裂し、騎馬武秀は(ハゲを隠すために)変身する。
「クルミレンジャー・レッド 見参!」
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 ・・・純文学ではありませんでした。

 しかし、意外なことに、読んでいて恥ずかしさはなく、むしろ心地よいのです。本気で書いている、大真面目にカッコいいと思って書いている、それが伝わってきて、ついつい「いけっ!」と心の中で握り拳を突き上げてしまうのですね。電車の中ですが。46歳会社員ですが。

 これで感動するのは、ひょっとしてこの世に作者と私の2人だけではないのか、という一抹の不安も感じます。

 タイトルに1とある通り、続編があるようです。色々とほのめかされていた伏線はちゃんと回収されるのか、「劣等感のパワーで変身する」「幸せになると変身できないばかりか自分自身が怪物化してしまう」という馬鹿馬鹿しくも厳しい基本設定のもとで、どうやってハッピーエンドにするつもりなのか。

 というわけで、2巻も読んでみようと思います。純文学へと展開することを期待します。

タグ:坂本康宏
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